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兄が帰ってきた。周の部屋を出なくてはならない。
だけど周を一人にしたら、兄はまた周を殴るかもしれない。ここにいるのが見つかっても、兄は周を殴るかもしれない。
どうするのが一番良い方法なのか、混乱して分からない。
「瑞樹、何してるんだ。早く行け」
「でも」
「俺は大丈夫だから」
周が大丈夫と言うたびに、なぜか危機感が水位を増していく。
大丈夫じゃない。
周を一人にしたら、また周の悲痛な姿を見ることになる。それどころか、今度こそ死なせてしまうのではないか。そんな恐怖が積もり積もって、首を横に振ってしまう。
「いやだ、周も一緒じゃなきゃ」
足音は真っすぐこちらに近づいてくる。心臓が、圧迫されて破裂しそうだ。
「瑞樹、いないのか」
兄の声が廊下から聞こえる。周は切迫した表情で俺の手を引いた。
「瑞樹、こっち」
「周……」
「絶対出るなよ。お願いだから」
洗面所に押し込まれ、祈るようにそう言われたら、何も言えなくなる。
周が洗面所の扉を閉めるのと同時に、ガチャリと入口が開く音がした。
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