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「どうしてそこから出てきた? なぜ周のことを知っている?」
兄はあまり驚いてはいない様子で、俺と周を見下ろして尋ねた。
「入るなと言っただろう。約束を破ったのか?」
「それは……」
「海、瑞樹は悪くない」
すべて洗いざらい吐いてしまおうとした俺を、周は制止した。
「俺が瑞樹を呼んだ。今まで瑞樹が自分から来たことなんかない」
「周、何言って……」
そんなわけがないと、兄にも分かるだろう。あの部屋から俺を呼びつけるなんて無理だ。
考えれば分かるはずなのに、兄は「そうか」と言った。
「瑞樹は悪くない。じゃあお前が悪いんだな?」
兄がそう訊くと、周は頷いた。
「じゃあそこにいろ。瑞樹は出ていなさい」
「待って、周に何するの!?」
兄は俺の腕を引き、半ば強引に部屋の外に出した。部屋から投げ出された後で扉を開けようとしても、内鍵が掛かっていて、ただ虚しくがちゃがちゃと音が鳴るだけだった。
「兄さん!」
叫んでも喚いても中には入れてもらえない。どれだけ扉を叩いても、中からは何の反応も返ってこない。
部屋の中からは、物が割れるような音や空気を裂くような破裂音、そして周の悲鳴とすすり泣きが聞こえてきた。中を見なくても酷いことが行われているのだと分かった。
「兄さん、お願い、開けて」
泣きながら頼んでも、兄は答えてくれなかった。
兄は初めから周だけを罰するつもりだったのだ。兄の執着と依存の対象は周だけだったから。だから裏切りに対する怒りが、周以外には向かなかったのだ。それに気づいたのはずっとずっと後で、俺は自分も罰されれば周の分が減るのではないかと思っていた。
愚かな俺は、明け方まで周の悲痛な声を聞きながら、手の皮が剥けるまで扉を叩いた。
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