04 逃亡

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 ──兄を先に行かせて、その後で森を抜ければ……。  そうすれば、見つかるまでに時間を稼ぐことができる。森を抜けて、歩行以外の手段で遠くまで行けるかもしれない。  ただ追いつかれるよりは、逃げ切れる可能性が高かった。  俺は道から脇に逸れ、森を少し下って大きな木の後ろに隠れた。  遠くから近づいてくる走行音に心臓が煩く鳴る。  行け。気づかないでくれ。  息を詰めて耐えていると、タイヤが道路の上を滑り、遠ざかっていく音がした。  いつの間にか止まっていた息を吐き出し、体の力を抜く。また歩き出すため、周をおぶろうとして、やっと周が下を履いていないことに気づいた。 急いでいたから失念していた。それに、周は薄いシャツ一枚だ。  俺は周に自分のジャケットを着せ、前を閉めた。なんとか太腿のあたりまで隠れたが、相当際どい。  それでもそれ以外の衣服はなかったので、仕方なくそれで歩き出した。  森を抜けると、すっかり朝日が昇っていた。  日の光に照らされると怖くなる。隠れる場所がない。通学路の方に出ようかと思ったが、慣れている道に出たら兄に出くわす気がした。  いつも通らない道を選び、できるだけ車が通れない場所を、最初の方は選んで歩いた。  しばらく歩いていると、道路にタクシーが停まっているのを見つけた。 「あの! すみません!」  周をおぶっているので手を上げられず、タクシー運転手の窓の傍で呼びかける。 「乗せてください」  そう言うのが早いか遅いか、後部座席のドアが自動で開いた。急いで乗り込み、ドアを閉める。 「どこまで?」 「とにかく……少し遠くまで。県外がいいです。県外のビジネスホテル」 「……はぁ」  中年のタクシードライバーは、訝しげに返事をした。 「隣の県でも?」 「隣でいいです。早く着くなら、高速を使ってくださっても」 「はぁ、分かりました」  タクシーが、緩慢な動きで発進する。  だんだんと速度が上がり、あっという間に知っているバス停を通り過ぎていく。大通りを通るとき、体がガタガタと震えた。上手く息ができなかった。兄の車に似ている車があると、小さくなって身を隠した。ずっと周の手を握っていた。
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