02 兄と周

1/6
452人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ

02 兄と周

 周は本当は何者なんだろう。  布団に入ってからも、そのことばかり考えていた。  ただの兄の友達……ではないだろう。それではあまりに異様すぎる。  だからと言って、別の妥当な答えが思いつくわけではなかった。考えても考えても分からないから、考えてしまうのだ。  疲れていたはずなのに、目は爛々としていた。もう閉じる閉じないの問題ではない。閉じても閉じなくても同じことだ。頭の中で色々なことが回りすぎて眠りが寄ってこない。  ――やっぱり気になる。  上体を起こし、布団から這い出る。  扉を開け、電気を点けずに廊下を歩く。キシキシと木が軋む。大丈夫。兄に出くわしたらトイレに行くのだと言えばいい。  開かずの間には、何事もなく辿り着いた。  扉と床の僅かな隙間から光が漏れている。小さく心臓が高鳴った。 周はまだ起きているのだろうか。ここに入ることができたら、と考えて、兄の部屋を確認してこなかったことに気づく。  兄は今どこにいるのだろう。  ふと考えて、怖くなった。  この中にいるんじゃないか? 部屋で寝ているのではなく。  そっと扉に耳をつける。微かに音が聞こえる。 「……ぁ……っあ、うみ……」  ……周の声?  しばらく耳をそばだてて、それが喘ぐ声だと理解したとき、かっと頬が熱くなって、思わず扉から耳を離した。  なんだ、今の。  どうしてあんな声を?  さっき兄の名前を呼んでいた。もしかして兄と周は……。  そう考えると、腹の底がざわりと騒ぐ。  これ以上知るのは嫌なのに、もう一度耳を寄せてしまう。 「本当にお前……すぐ……な」 「……んん……っぁ……」 「少しは我慢……のか」  やっぱり、やっぱり。やっぱり。  どうして? なんで? 男同士だろう。いや、それが悪いわけではない。だけど、兄が、昨日会ったばかりの男……周を抱いているだなんて、突然受け入れられない。  それに、周は友達だと言っていたじゃないか。さっき自分でそれを否定していたのに、いざとなるとその言葉に縋りたくなる。  音を立てないように後ずさり、口を押さえる。  それから急いで部屋に戻り、布団に潜った。  ――嘘だ、あんなの。  兄と周はそういう関係なのだろうか。枕に顔を押し付け、忘れようとしても忘れられない。周の悩ましげな声が頭に響く。  住むところがないからここに居候しているだなんて、嘘なんだろうか。  周がここにいるのは、兄の恋人だから?  相手が男だから、兄も隠そうとするのだろうか。  そう考えると、友達を隠すよりは多少辻褄は合う。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!