レール卿が闇商人として君臨するまで

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01王国の勇者公募(3081文字)  大昔に封じ込められたはずの魔王が蘇よみがえったという噂はどうやら本当であるらしい。ここ数百年は平和であったライトベル王国配下のいくつかの町は、魔王軍の襲により陥落した。  そこで、王国はかつて魔王を討伐したと言い伝えられる勇者の生まれ変わりを探すべく、大々的な募集をかけた。  我こそは伝説の勇者の末裔という者はこぞって王国に集まり、その候補者たちはライトベル王国城門前へと集められた。  私もその一人だ。世界を救うというのは私のかねてからの夢だった。  幼いころより両親をなくした私は、信仰深い義母らに育てられ、そして勇者の伝説を聞かされて育った。  光の神の加護を得た光の勇者は、闇の神の力を得た魔王との決戦の末、ライトベルを救う、いや世界を救う、そんな物語は私の憧れとなったのだ。だが、時は残酷なもの、大人になるにつれ、私の心に理想はきえ、現実しか見ることができなくなってしまった。  義父母が運営する教会は金銭的な問題をかかえ国に売り払ってしまい、私は少しでも正義に近づこうと光の神の信徒を目指していたが、小金を稼ぐせこい野獣狩りに勤しむ毎日に堕落していた。 だが、この度の募集は私の人生を逆転してくれるだろう。私が城へと足を運んだ理由はそんなところかな。  しかし、現実そうは甘くあるまい。  勇者試験なるものが私を待ち構えていたのだ。王国の経済は魔王軍の進行により逼迫しつつある。つまりは、貧困から抜け出そうとするものが人生の逆転を目指し、この城に詰めかけたのだ。  ざっとみるに600名に及ぶ人が王の城門に詰めかけ、私こそが勇者の末裔だと叫んでいた。前日、前々日の応募者を含めればその数2000名を超える。2000名の勇者なぞ格好がつくまい。みれば中には明らかに盗賊ですといった顔の者も入れば、吸血鬼のような青白い顔の者もいる。 「我こそは伝説の勇者ロキの末裔でげす!」 「いや、我こそロキの末裔じゃぁ! ヨゥホゥ!」 「ところがどっこい、我輩こそが真のロキの末裔ザンス!」 お前たちは討伐される側なのだといいつけてやりたいが、些か皆の血の気は多い。それを想定してか、王国側は勇者を絞る選抜試験を設けていた。  選抜試験は第3次まで設けられており、第1次試験は只今より行われる。これに合格すれば、勇者候補者として王国の憲兵団の一部に編成され、第2次試験へ進むことができる。  どうも、ここに集まる者たちのなかには勇者になる事ではなく、憲兵団に入る事を目的としている者もいるようだ。 「お集まりの者もの、只今より、第1次試験を開始する。これに用意したは、その昔、闇を払った光の勇者ロキの剣よ。光の神ライトの神殿よりその台座ごと発掘しここに持ってきた。この剣には無論、光の神ライトが宿り、うぬらに勇者の素質あらば剣は台座よりたやすく抜けるであろう。剣を抜いた者は、この第1次試験を合格とみなす。よいか。」 「うおおおおお」 能書きたれる憲兵長の言葉にものものは雄叫びをあげた。勇者の集まりというよりも海賊酒場のような騒々しさだが、こうして試験が始まったのだ。  きっと信仰深くない者は思うだろう。剣は世に出回っている物と比べ質が悪く、台座も老朽が目でわかる。簡単に抜ける。この試験は楽勝だと。  だが、そうはいかない。神の力が宿った伝説の剣は、人を選ぶ。そう簡単に勇者を産出するわけがない。 「勇者番号001、合格! 次!」 「なんですって?」 私は目を疑った。やせ細ったロバのような勇者番号001はいとも簡単に剣を抜いてしまったのだ。 「勇者番号002、合格! 次!」 「やった。」 どうも気が抜けてしまった。あれだけ幼い女の子までもが剣を抜いてしまうのだから。そんな簡単に勇者が選出されてよいのだろうか。  あの剣は確かに人を選んでいるようだった。  次に試験に挑むは人間三人分の体積がぎゅっとつまったような大男だった。どちらかといえば、勇者ではなくゴブリンか。よくてもモブといったところだが、余裕に剣の前に立つこの大男は小さな剣を台座から抜くことができない。あの男なら容易いだろうに、台座すら持ち上げられずにいる。 「勇者番号003、不合格。」 「なぜだ!」 「勇者番号003、不合格だ。そうそうに立ち去れ。」 嫌味な憲兵長の言葉に怒った大男は暴れ始めるが、現れた上級魔法使いの兵たちによって制圧され、城からつまみ出されていった。  私は、「勇者番号204」と書かれた紙切れを渡され一列にならばされた。私の目の前に並ぶのは、いかにも主人公面の華奢きゃしゃな体をした少年だ。まさに勇者にふさわしい。本人は意図していないだろうが、男子の癖に滑らかな黄金の長髪がなびく様はとても鬱陶うっとおしく、嫌味だ。 「貴方は、どうしてこちらへ?」と私に目の前の少年が声をかけた。 彼の名はアースというらしい。元は農民の出だが、彼もまた人生の逆転を狙い応募したのだという。 「私は、勇者に憧れていましてね。ただ本音のところ貧しく、生活ができません。勇者となれなくてもせめて兵として職につくことができればと思い応募しました。」 「僕も勇者にずっと憧れていました。もしも自分が勇者だったとすれば、のちに伝説になれるんです。ワクワクしませんか?」 アースはそう言って無邪気に笑う。説の勇者がどんなに華奢で容姿がよろしくてもよいが、こうして実際勇者になるとすれば、彼のようなか細い腕で本当に魔王と戦えるのだろうか。 「あなたは魔法使いですか? それともアーチャー?」 「いいえ、僕は魔力がほとんどありませんのでソルジャーですよ。」 心配だ。勇者番号002の女の子とはわけが違う。あの女の子は装備を見るにやりての魔法使いだ。だが、彼は違う。どこもかしこも安いチェーン店で買ったような装備で、彼の場合、他の連中とはすこし別の意味で勇者らしくない。 「次、203番。」と偉そうな憲兵長が叫ぶ。 「はい!」アースが返事した。 「ではいってきますね。」 アースはにっこり笑って台座の方へと走っていった。あの肩幅の狭い少年は剣の柄をぐっと握ると、剣は見事、台座からふわりと浮きあがった。そして軽々しく少年は、台座に刺さっていた剣を天に向かって持ち上げたのだ。 「はい合格。では次。」 流石に200人以上同じことをしていると飽きるものか。ここは安い勇者の生産工場のようなものだ。憲兵達の反応も淡々としている。 「それでは次。204番」 だが自分の番となると違う。とうとう待ちに待った私の順番だ。私の腕にぎゅっと力が入った。 「はい!」 私の心は高鳴っていた。もしかしたら少し床を弾くように歩いていたかもしれない。ただ、どうも、台座につくとこの場を取り仕切っている憲兵長が私を見下しているようだった。 「早くしろ。」 「は、はい。」 何を偉そうに。私からしてみれば、お前のその狐とヘビを混ぜたような陰険な顔がいけ好かない。人を裏切ってもものともしない面だ。まぁいい。私が勇者になり世界を救う役割を担えばそうそう邪険に扱うこともできまい。私は剣の柄を掴んだ。 「ぬっ!」 何たることか。剣が抜けない。剣が固い。台座からびくりともしない。それどこから、腕の力がみるみると剣に奪われていく。 「へぇいや」 思わず変な声がでた。もはや、気力すらも奪われている。これはどうしたことか。 私は、あの憲兵の方へ振り向いた。するとどうか。憲兵は私を嘲笑っているではないか。遠くで試験を見守る偉そうな将軍格の男も、並んでいる憲兵達もどこか苦戦する私を見て見下しているように見える。ここで私は気がついた。これは意図的に仕組まれたものだ。 「ああああああ」 私の叫びに乱心したと思い込んだ他の憲兵たちが私の体を取り押さえ、城の外へと引きずっていく。 「無念じゃああ」 私は、掘りへと放り込まれてしまった。
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