レール卿が闇商人として君臨するまで

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11革命の種(文字数2982)  砦から出る。すぐのところにベラがいた。 「おかりなさい。若旦那。」 「あぁ、あれからも商売はダメですか」 「えぇ、今日の商いはもう終えました。全くダメです。」 良い。それが狙いなのだから。  私はベラにジャイアンツランドから撤退するように指示した。何も売れずリッカーは相変わらず怒っていたが、彼にはこれが、商売の基本で次は安く販売しに行くといい今日の所は解散した。そして町の外に待機させているアレンの元へと向かう。 「若旦那様、私はどうすれば?」 「あぁ、君は、至急、別の武器を仕入れ直しジャイアンツランドの砦内の憲兵のみを対象とした商いをしてください。武器はゴージャスな物がいい。分かるね? 四日もあれば、準備できるでしょう。」 「分かりました。」 元々、私は、アランに武器を用意させ、武器商人としての商売を考えていた。だがここには更に儲けるチャンスがあるようだ。  サリオンは、ジャイアンツランドで起きている数々の問題を知っている。しかし、彼女はガットンの部下である以上、逆らう事も出来ず、また自分の信条と間に苦しんでいる。だから私は彼女との別れ際に彼女をとある場所に誘っていた。  夜、私はベラに更なる指示をしたあと、再びジャイアンツランドへと戻って来た。  ジャイアンツランドの酒場。合流したサリオンは嫌がったが、私は彼女を無理にでも酒場へと連れ入る。 「いらっしゃー……。」 店主のデスラは、私達の顔を見て言葉を止めた。サリオンの顔を見て、彼女は客をもてなす顔ではなくなった。  憲兵として彼女の顔は皆に知られているのだろう。他の客も睨む者もいれば、会話を止めてそっぽを向く者もいる。 「憲兵の方々がこんな店になんのようかしら。」 「あぁ、いえ、私は憲兵ではないです。名も知れぬ越後のちりめん問屋でございます。」 デスラは、水だけを私達に出した。酒は出せないという事なのだろう。 「だから私は嫌だと言ったのです。ジャイアンツランドの民は、我等憲兵団を目の敵にしています。」 「えぇ、知っていますよ。ここは私のおごりです。店主、私達に何か酒を。」 「水しかないわ。貧乏なもので。」 私はぐいと水を飲みほした。 「ではおかわり。」 「もうありませんよ。水も貴重ですので。そういえば、あんた、今日、あの法外な値段で物をうりつけようとしたキャラバンについていたわね。」 「ですから私は商人です。儲ける為に様々な所に出向いております。」 デスラは明らかに私を警戒している。だが、そんな事はどうでもいい。勝負はここからだ。 「この町では、私のキャラバンが商いをさせていただいておりますが、物資がきちんと町の隅々まで回っておらぬ様子。どうも腑に落ちんのです。本日は、商売目的ではなく、町の様子を見に参りました。」 サリオンは顔で訴える。何がいいたいのかと。 「私が察するところ、物資が足りないのはジャイアンツランド砦が全てを税として奪っておられるからでしょう。知ってか知らずか、王国はジャイアンツランドの砦が援軍として機能している為に黙認している。リリー砦の件もありますから砦側に強く物を言えんのでしょう。」 「その通りだ。だが、我々は援軍としてたいした働きはしていない。」 サリオンが続いた。 「税金泥棒という奴ではありませんか?」 そこに酔った男が私達の席の隣に座りこみ、話に割って入ったきた。 「お前達、ここに何しにきやがったんだ? あぁ? 俺達を嘲笑いに来たのか?」 男の息はたっぷり酒臭い。 「いいえ。ビジネスの話しをしに来たのです。」 「あぁ?」 男は私の胸倉をつかもうとしたが、サリオンが腰に下げていた剣を抜こうとする。私はサリオンを止め、乱れた服を直し、逆に男の胸倉をつかんだ。一斉に店の中にいる男たちが立ち上がる。 「皆さん、私はこの町に初めてやってきて、底知れぬ怒りを感じました。それはこの町を苦しめるガットン憲兵長にではなく、何もしようとしない貴方方に対してだ!」 男は私の腕を振り払うと、短剣を取り出し、私の喉に向けに素早く差し向けた。だがそれをデスラが止める。 「待ちな。あんた、ビジネスの話しだって言ったわね。今の言葉、戯言じゃぁないってわけだね。あたしらをたきつけて何を企んでいるんだい?」 デスラは私を睨んでいる。しかし、彼女の眼はただただ敵意を向けているわけではない。どこか、私の話しに期待を寄せている。私は思った。この勝負。勝った。 「革命ですよ。」 「革命だって?」 辺りはガヤガヤと喚き始めた。 「しかし、俺達は武器まで取り上げられている。この町で暮らす事ができるのは商人か、農民だけだ。どうすりゃいいってんだ?」 「言ったでしょう。私は商人です。タダでは商いになりませんので、武器を安値でお売りするというのはどうですか。」 「まて! 革命を起こすとは、どういうことだ! レール!」 このサリオンの言葉に再び酒場の中は静かになる。 「レールってあの? キャラバン連合の?」 また周囲の者々はざわめき始める。 「そんなことはどうでもいい。レール、貴方が今言ったことは正気か。これは王国に対する反乱だ!」 今度はサリオンが私の胸倉をつかむ。だが私はそれを払いのけ、彼女に冷静を促した。 「それは違う。私は王国よりとある依頼を受けている。食糧を国民たちに普及させてほしいという事。しかし、私らがたくさん売ったとしても、その分、税として徴収されるばかり。商いの記録によれば、ここの町民たちは一日で食える分しか物を購入できず、蓄えはない。此度の商売は薄利多売を狙った商売でしたが、たくさん買ってくれねば商いになりません。状況を変えなければなりません。サリオン、今一度お尋ねします。王国に対する反乱分子とは一体誰を指す言葉ですか? 私ですか? それとも民を苦しめるガットンですか?」 サリオンは震えながら崩れ落ちるようにして席に座りこむ。それは彼女だけではない。何人かの、酒場の客がそうだった。すぐに客の一人が私の側にかけより、私の手を握る。それをきっかけに他の何人かもが私の側に駆け寄る。 「そうだ。そうするしかない。」 「やろう。やるぞ。」 彼らは口ぐちに言い始めた。酒場の空気一気に私の方へと流れ始めた。 「皆静かにしな!」とデスラが怒鳴る。が彼女は「誰が聴いているか分からないよ」と続けた。 「先程も言いましたが武器は私が手配しましょう。皆さんが同心してくだされば、砦の武装を極力、無力化いたします。さて、サリオン、貴方はどうしますか? 悪の手先に落ちますか? 貴方の素晴らしい信条に従いますか?」 彼女は困惑しているが、答えは分かっているようなものだ。あの時。戦争の時、彼女は、自分が不利だと分かっていてもロッドハートにたてついた。自分の信条の為だ。彼女はきっと私側になびく。私は続けて彼女に指示を与えた。 「貴方は貴方の仲間を集めてください。私の計画はもう始まっている。時はすぐに来るでしょう。貴方は仲間を引き連れ、革命に集う者々を砦内へと誘導してください。」 サリオンは、じっと私をみつめたまま黙っていた。そして、ゆっくりと頷いた。
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