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12反乱の夜に(文字数3597)
アランはキャラバンを編成し直し、新たな武器を調達していた。柄は金色でありとあらゆる宝石が装飾されている。
「こんなものが本当に憲兵団に売れるのかね。」とアランは心配していたが、その憂いもつかのま、ジャイアンツランドの砦では飛ぶように売れていった。
「さぁさぁ御立合い、手に入れた武器を皆さんに販売いたします。こちらの剣、お値段は五万ゴールド。」
「いや高すぎるぞ!」と憲兵団からヤジが飛ぶ。
「それならば、いかがでしょう。ご購入いただいた方の装備をこちらが高値で買い取らせていただきます。差し引いた値段ですがいかがですか?」
ガットン憲兵団の兵は最初黙っていたが、一人が「売った! そして買った!」と叫ぶと他の兵達も同じように自分の武器を差し出し始めた。
アランが用意したゴージャスな装備は驚くほど売れる。だが、売られていく装備が、武器としての機能がほとんどないレプリカものである。本当のところ五万ゴールドなぞという値段の代物ではない。せいぜい千ゴールドで売れればよいぐらいだ。
「おお、お主はレール卿の商人か。」
とそこに現れたのはガットンであった。
「えぇ、若旦那から話を伺っております。ガットン様にはこの特注品を。」
「ふむ。」
それはこれまで売った武器の中でも一際美しく輝く巨大な斧だ。
「これはこれは。なんと美しい。」
「若旦那より仰せつかっております品でございます。我が若旦那と古くからよしみが深いとある豪族の遺品でございます。勇者ロキの伝説の剣を作ったとされる伝説の職人が作りし(という設定の)大斧でございます。」本当は適当なものを適当に仕入れた。
ガットンは大喜びし、大金をアランに渡す。試し切りをしたいと言い始め、燭台を叩き斬るがどうもガットンは納得していない様子。
「うーむ、切れ味が元のものよりも悪いな。」
「ガットン様、それは吸血の大斧と申しまして、戦闘の際に貴方の力を倍増させる者(という設定)なのです。」
「なるほど。そう言われてみれば、この大斧がわしに力を与えてくれるようだ。」
こうしてアランは大量の武器を仕入れることができた。
私達は、アランが仕入れた武器を町はずれまで運び出した。
手筈の通り町民が私の武器をいくらかの金で引き換えに持っていく。革命の種は今こそ成った。
どうだ、これが闇商人の力というもの。レプリカを使い、武器を安く仕入れた上に利益もある。どれだけ安く町民に売り払っても利益になる。あとは時を待つだけだ。
数時間後、とうとう革命が始まった。
ジャイアンツランド砦で火の手が上がり、町民兵達の雄叫びが聞こえてくる。私は、ベラとアランと共に、外壁の外で時が来るのを待っていた。ナモスの兵達も共に待機している。
私は慣れぬタバコを咥えていた。ロッドハートもきっと私達が戦争に潜り込んでいた時、こうして時が来るのを待っていたのだろう。
私は今までにない興奮を胸にひそめていた。勝ちか負けか。この賭けに負ければ、砦で詐欺を働き、革命軍に金をばらまいた悪党に堕ちるだろう。だが大金を得る為にはそれだけの賭けをすべきなのだ。
ただ一つの憂いは、ロッドハートが敵に回らないかどうか。だが私が戦争のバランスを崩し、彼らの邪魔をしているわけではない。私が自ら戦争を作っただけだからきっと大丈夫。だと思う。
「若旦那、合図です。」
砦の矢倉から、町民兵からの飛び矢が流れるようにして飛んでくる。私の号令で、アランと数人のキャラバン隊員たちが砦へと乗り込んでいった。
一方砦の中では手筈の通り、サリオン率いる革命派が門を開き、砦の中へデスラ率いる町民兵達がなだれ込ませ戦闘を開始する。
革命号令の合図はサリオンが担っていたが、彼女が町民兵へ合図を送ったタイミングが幸運を呼び込んだ。
町民兵たちが砦へと入り込んだときに、憲兵団らは宴の後の一息で、完全に気を抜いていたのだ。
「一気になだれ込め! 兵達が持つ武器はレプリカだ! 手筈の通り、なるべく兵達は生かしたままにしろ!」
すぐさま砦の一階は制圧され、続いて地下も制圧された。
町民兵たちが二階へと登ってきた時になってやっと砦の兵たちは応戦する。しかし、レプリカで本物の武器に勝てる訳もなく、すぐさま制圧された。
魔法使いの兵たちの対策もきちんととってある。彼らにばらまいた杖やアクセサリーには退魔の魔法が施されており、アランのタイミングで彼らの魔法を弱体化することができるのだ。ただし、強い魔力を持つ者を完全に無力化させる事は難しく、町民兵にも多少の犠牲は出てしまったようだ。
「まて! 砦内の物資に手をつけるな!」
それは、彼らに大義を見出す為である。物資を盗めば革命は大義あるものではなくただの強奪になってしまう。
「そんなものはいい! 兵達は制圧した地下牢に閉じ込めろ! ガットンを捕まえろ!」
「おう!」
町民兵達はガットンがいる三階、憲兵長室へとむかった。それを見計らい、私の指示を受けたキャラバン隊員たちが倉庫へと集まってくる。そして、物資を運び始める。
「若旦那の指示通り、一部だけを外へ持ち運べ。誰にも見つからないように裏口を使え。我々は、上の階の町民兵を助けにいく。」
アランは一部、キャラバン隊員を連れ、三階へとむかった。
とうとう、ガットンを一つの部屋にまで追い詰めた。ガットンは籠城をきめ、扉前にいくつかの家具を置いているようだ。
町民兵の中でも体が一番大きな者がなんども扉に体当たりをし、扉はとうとう壊されたのた。
「おのれ! おのれ! わしに刃向かうとはどういった了見だ。この町を守ってやったのは誰だと思っている!?」
ガットンは大斧を振り回し威嚇する。レプリカとはいえ、彼の腕力は何人もの町民を一気に吹き飛ばすには充分だ。
「あんな怪物、どうやって止めればいいんだ。」
例え一人であったとしても憲兵長クラスなのだ。何の訓練をも受けていない町民兵たちが敵う相手ではない。
「私が出よう。」
そこに現れたのはサリオンだった。彼女は、自身の剣を抜き、ガットンへと向ける。
「そのような細い剣が俺の大斧に勝てるというのか? その刃、へし折ってやろう。」
「我が刃は我が志のごとく強い。」
ガットンの一振りをサリオンの刃が弾く。確かに、あの腕力を持つガットンの大斧と戦うには、サリオンの剣の刃は細すぎる。
だが、刃と刃が触れ合った時に町民たちは気が付いた。はじけ飛ぶ火花の一部が黒く、彼女の刃には黒いオーラが纏っていた。彼女は自身の剣に強化の魔法を施していた。
「がはははは、お前は闇属性であったか。魔法を使わぬから気が付かなかったわ。しかし、左程、魔力は強くない。ならば。」
ガットンは斧を強く握りしめ、唸り始める。すると彼の体から光のオーラがにじみ出てきた。その光のオーラは大斧までもを包み込む。
ガットンは大斧をサリオンめがけて振り下ろした。長く戦いを経験した彼女は、すぐさまその力を察し、大斧を避けた。その力は凄まじい。レプリカとはいえ、彼女はこの一振りで生まれた風圧に足がよろめく。この力には流石に勝てまい。ガットンの次の振りを避けるので精いっぱいだった。
「どうした避けるだけか?」
「っく……憲兵長になった事だけの事はある。」
元より、ガットンは、その素行の悪さを嫌われ憲兵長より出世が叶わなくなった。だが、その実力は、確かなものであった。ガンドルス兵の一員として武功を高めた男なのだ。力だけでは勝つことはできない。
「どうした? どうした? 恩知らずめ。ここで果てるがいい。」
とうとうサリオンは壁際へと追い詰められる。見ていた町民兵たちは、畏れを成して助ける事ができない。だが、彼らをかき分け、アランが姿を現した。
アランは何かの呪文を唱えると、ガットンの体を纏っていた光のオーラは消え失せた。それはまさに、とどめをさそうと斧を振り下されようとしていたその瞬間であった。
サリオンはそれを見切る。彼女は剣を振り、ガットンの斧の柄を二つに割った。刃がとんだ。勢いよくとんだ刃は、部屋の隅に置かれていた木材の椅子へ向けて飛んだが、オーラが無ければただのレプリカ。突き刺さることなく、机を弾き飛ばすと同じように、斧の刃も椅子にぶつかり、装飾の宝石が外れてとんだ。
「なんだと!? 何故だ……お前は……レールの……謀ったな!?」
そう、ガットンに売り払った斧には闇魔法が施されていたのだ。それは、勇者試験の時に使われた剣と同じ魔法だ。ただ今回は闇属性の呪いにより、光属性のガットンは力を奪われる。
「ここまでだ。ガットン。」
サリオンが剣を彼に向けた。
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