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13私は闇商人(文字数1916)
アランが戻って来た。砦の方からは歓喜の声がいくつも聞こえる。
「終わったか。」
「はい。終わりました。兵達は、砦の地下牢に箱詰めしております。」
「うむ。では、リッカー殿、貴方のお仕事ですよ。」
リッカーは私に深々と頭を下げ、自分の兵達を砦へと向かわせた。彼らが行ったのを見計らい、入れ替わりで私が送ったキャラバン隊員たちが戻ってくる。
「若旦那様、準備が出来ました。」
「うむ。ではベラ。商売を始めよう。」
「はい。」
砦からただで手に入れた食糧と、元ある食糧を合わせ、うんと安く町民たちに売りつける。もうガットンに税として徴収される事はない。今食べる分、今後ためておく分、そして勝利の宴で使う分、皆はどんどん食糧を買いあさっていった。
こんなに面白い事はあるだろうか。思わず高笑いしてしまう。さぁ、今宵はどんどん売れ。明日の商いの事は気にするな。今日はあるだけ売って売って売りまくれ。私は大声で笑う。
リッカーによる報告書は以下のとおりである。
ジャイアンツランドにて、町民によるガットン憲兵団に対する反乱が起き、町民兵によりガットンらは取り押さえられた。
反乱の理由は、ガットンの横暴の限りだとされているが、ガットンは事実無根である事を主張していた。しかし、彼の素行の悪さ、況してや町民たちに品が行き渡っていない事は王国の知る所であり、反乱止む無しとされ、彼は正式に罪人として投獄された。
たまたま商いの為に来ていた私達は、反乱に遭遇。リッカー率いる憲兵団によって町民たちは鎮圧され、和解。
ジャイアンツランドの砦は、この事を功とし、新たに憲兵長に昇進したリッカーが治める事となる。サリオンは彼らの部隊に配属され直した。サリオンの活躍は一躍知られるようになり、彼女も隊長格に昇進した。
「だが、奪還が町民に勝てたのは何故だ!」
王国の円卓で、リッカーの報告書を読んだ将軍たちが集まっていた。特にこの事に対し、腑に落ちないといった態度をとっているのはガンドルス将軍である。
「兵達の主張によれば、この騒動にレール卿のキャラバンが関わっていると。高値でレプリカの武器を売り払い、砦の無力化を図ったとか。間違いないか?」
私はここに呼びつけられている。だが私は堂々としていた。
「あくまで商い。私は、あの砦の中を見て、ガットンの部下の皆様はガットン含め、装飾品がお好みだと思いました。故に私はあの砦に部屋に飾り華やかにするためのレプリカを用意したのです。無力化の意図はありません。」
「そうです。ガットンは見得ばかりを気にする。現に、あの砦には自分たちが狩った野獣たちの剥製が飾られていた。」
と援護したのはナモスである。
「しかし怪しい物ですね。レール卿は反乱を促したのではないですかな?」
モス将軍が言った。彼は、この将軍たちの中でも一番頭が切れる男だ。できれば敵にしたくはないが、如何せん何を考えているのか分からない。怪しく光る眼鏡の奥の瞳は私をしっかりととらえている。
「貴方が反乱を促したという噂があるのだが?」
ガンドルスは怒りに燃えている。ガットンは彼の指揮する憲兵団であったからだ。私に対する怒りというよりも、自分の不甲斐なさに怒っているようだ。
「噂は、噂。この家業、私は人から恨みを買います。妙な噂はもとより絶ちません。ですのでいつも聞き流しておりますが、将軍様にご心配をおかけるほど大きな話になっているのならば、噂の元は絶たねばなりませんね。」
ガンドルスはモスを見た。モスは何一つ動ぜず
「それには及ばず。おっしゃる通り噂は噂。貴殿は、王国に貢献し、そしてこの度は確かに王国の依頼を熟してくださいました。ジャイアンツランドの町民たちが、ガットンだけではなくこのライトベル王国に対しても愛想を尽かさなかったのは幸運です。」
「その通りその通り。もしも、レール卿が反乱を煽ったとしても、結果王国の膿を出すことができた。よいではないですか。」
「しかし、モスにナモス。反乱を一度起こした者は再び王国に刃を向けぬとは限らぬ。今、ジャイアンツランドの砦はお前の配下が指揮することになったが、その辺りの調査はこのガンドルスがやろう。それでよいな? 皆の衆。」
将軍陣は全員が頷いた。かくして私は解放される。
私は馬車に頼らず、歩いて家に帰りたくなった。馬車を先に行かせ、私は歩いた。
私は闇商人なのだ。これぐらいの嘘はどうってことはない。手慣れたものだ。全ては利益の為。それが闇商人というもの。
気が付くと、私は、道端に咲く花を踏みつけてしまっていた。
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