レール卿が闇商人として君臨するまで

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03ツクバのキャラバン(2395文字)  少し休んでから私はゴトー山へ向かった。ロビンは私の他に、ダダラとリンいう二人の魔法使い、バサリオは剣術を得意とするソルジャー、無所属騎士のサリオンの四人を雇っていた。  私を含め五人の用心棒。そして、ロビンとは別のキャラバン団員が十二名程の用心棒を集め、計十七名がここに集められていた。  キャラバンの規模をみるにも、これは異例の多さだ。戦地に行くにしてもこの多さと報酬の額は士気に関わる。 「これだけ小さな荷台の為に十七人の傭兵を雇って大丈夫か? 報酬はきちんと出るんだろうな?」 一人のモヒカン頭の戦士ライジャが言った。 「えぇ、本当。終わった後に報酬はありませんだなんて言われたらたまったもんじゃないわ。」 赤と青の髪をしたライジャの彼女キラリが続けた。 「察するに我々は仕事を選ぶ程裕福とは思えない。仕事があるだけましではないか?」 そこに真っ白な顔をしたダダラが二人を制す。その言葉に、がやがやとしていた他の用心棒たちが黙りこく様子から、キャラバン陣営はそういった人員を狙って声をかけていたようだ。 「皆様、今回は我々の護衛役にはるばる来ていただき誠にありがとうございます。申し遅れました。私このツクバキャラバンの副団長セリと申します。今、キャラバン団長が参りますのでもう少々お待ちを。」 セリは、頬がコケ、すらりと背の高い男だ。物腰柔らかく、こうも紳士を装っているが眼鏡の内側にある目はどうも冷酷で好きに慣れそうにない。  そしてゆっくり荷台から顔を出したのはこのツクバキャラバン団長、ロッドハートである。彼の歩き方はとてもぎこちなく、体は正面を向いているのにクビは明後日の方を向いている。常に顔はニコニコとしている髭を生やした老人だが、どうもお面をかぶっているかのような、生き物でありながら無機質な怪しさを醸し出していた。 「やぁ、諸君。私がツクバキャラバンの団長、ロッドハートだ。諸君らの活躍に期待しているよ。」 「団長、我々全員を雇う金はあるんでしょうな?」 我々と同じく雇われた用心棒バサリオが尋ねる。彼の事は知っている。没落貴族で、元は有名なギルドのメンバーであったが内輪揉めに追われ、今は独りで活動しているようだ。  ギルドとは、利益を求め、人々の依頼を熟すグループを指している。その仕事内容は、用心棒から、魔物狩りと幅広く、バサリオはその中でも名の通った騎士だった。 「あるとも。ここに集まってくれた君らには前金として、こちらを差し上げようと思っておってな。セリ、皆に例のものを。」 「は!」 セリは、ロッドハートの号令に、何重にもロックされた箱を荷台からおろし、中から宝石を括りつけたペンダントを全員に配った。  それは美しくも、宝石であるのにどこか色気がある。目利きが利く訳ではない私でもこれが高価な物だと分かる。それは周りの皆も同じで、目を見開いたまま固まっていたり、口をパクパクと様々なリアクションを見せていた。バサリオは、かけていた片眼眼鏡を近づけたり遠ざけたりして、その宝石を品定めしている。 「こ、これは、シンコー遺跡の宝石。何故こんなところに。」 「ねぇ? どれだけ価値があるのこれ?」バサリオにキラリが尋ねた。 「か、価値がいくらという問題ではない。これは、未だに解明されていないシンコー遺跡から多くの犠牲を出して捜索隊がやっと持ち帰ることが出来たと言われるものだ。今ではライトベル王の座の継承の証として使われている。……つまりこんなものが世界にいくつもあっては混乱を招いてしまう。」 「そんなものをどうして?」 ロッドハートは笑ってばかりで説明するつもりはないらしい。しかし、この宝石はとにかく値が付けられないほどの価値があることがわかった。 「金にならなきゃ意味がないじゃないか!」と用心棒の誰かが怒鳴った。 「愚か者! 金にならずとも、これが一つあれば、国と交渉できる程の力が持てるのだぞ。」 バサリオの言うとおりだ。直接値はつけられずともライトベル王国に対して、言い値で交渉することができるものだ。 「こうも聞いたことがある。シンコー遺跡の発掘は大変危険なもので、調査団はこの宝石を一つしか持って帰ることができなかった。遺跡内部にはまだまだこのような宝石があると……。あんたらは王国の調査団よりも相当腕の立つ遺跡荒らしのようだ。」 ダダラが冷静に言う。ロッドハートは、聞き流しているが、セリは慌ててそれを否定した。 「私達は、健全なキャラバンですよ。」 「健全なキャラバンが、戦地にいくもんかね。」 「健全なキャラバンだからこそですよ。犯罪は行いません。それでは参りますよ皆さん。」 まだこの宝石が本物かどうか疑っている者がいるようだ。私自信、これが本物だとは到底思えない。そうでなくても価値はあるだろうが。  皆、各々いろいろな角度から目利きしているようだが、キャラバン隊が動き始めると、皆がまってくれよと言わないばかりに歩き始めた。宝石の真偽は別としてもこのキャラバンは膨大な経済力がある事に間違いはないだろう。 「ねぇ、貴方も、勇者試験受けて落ちた口?」 不意に話しかけてきたリンは大きなイヤリングを垂れ下げた魔法使いだ。 「あぁ、そうですが、貴方もですか?」 「そう。そして、あそこにいる三人も、さっきの宝石の目利きをした人も、たぶん、ここにいるのは全員。みんな生活に困っている人ばかりで、それもみんな闇属性。しかも勇者試験を落ちた連中。なんか変な感じ。」 ツクバキャラバンの目的は何であろうか。闇属性である事や、勇者試験を落選したものものを選ぶ事になんの目的があるというのか。ますます怪しい連中だ。 「私は、リン。貴方はなんていったっけ?」 「私はレール。リンさんよろしく。」
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