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05戦いの渦中へ(2721文字)
我々は魔王軍陣営へと入った。キータムの森からダーマ山へと抜け、そして頂上付近で陣営を構える魔王軍の側で店を開いた。
「数に限りがありますので高値となりますが、どうぞこちらレイの実でございます。一粒600ゴールドとなります。さぁさぁ、並んでください。はいどうもありがとうございます。」
魔王軍の連中の奇妙なことか。見た目、普通の人と変わりがないとはいえ、その恰好が実に奇妙だ。
魔王軍、彼らは自国をレテアニアと呼んでいる。レテアニアには以前述べた通り闇属性の人しか生まれず、光の神ライトを信仰するライトベル人とは違い、闇の神ダークを信仰している。そういった信仰の為か住民は常に闇のオーブを纏っており、光を嫌っていた。
彼らは光を遮る為に黒いものを常に身にまとい、その習慣からか鎧も黒い。更に弱点である光を遮る為に、鎧には黒い霧が生ずる魔法がかけられていた。
山に漂う闇のオーラの正体はここで陣を構える兵達の鎧に掛けられたこの魔法だったようだ。
「合点がいきましたな。」とダダラが言った。
「えぇ、用心棒を闇属性で統一すれば、奴らに信用されるといったところでしょうか。ですれがそれだけではないようで。」
そう、まだ任務は三分の一、ここでの商売が終われば三分の二。では残りの仕事はなんであろうか。
「もしかすれば、ライトベル王国に対する忠誠心がない者をあつめたのではなかろうか?」
ダダラの考えは私と同じだった。
「闇属性というだけで迫害され、汚い手を使って我等は、憧れた栄光の道を閉ざされた。王国を見放した者をここに集めたのは、魔王軍とも癒着を持つキャラバンの実態を王国に密告されるリスクを減らすものと考えれば。ただ、納得のいかぬものもいるようだ。」
それはサリオンだ。彼女は、自己の正義感が定まっており、ライトベル王国のやり方を不服とするも、ツクバのキャラバンのやり方もまた不服である様子だった。
「彼女、何かやらかさなければいいのですが。」
我々は、再びキータムの森へと戻って来た。
「お疲れ様です皆様。それでは最後のお仕事ですが、ここからが山場です。ただいまより、ダーマ山の麓までレテアニアの軍が進軍します。」
これまた妙だ。もう朝日が昇る。そうすればレテアニアは撤退し、勇者候補編成の憲兵団による追撃が始まるだろう。ならば、戦場のダーマ山の麓はただの王国軍の通り道でしかない。だがダダラは私より状況を冷静にみていたようだ。
「見ていなかったか? 魔王軍は、上級魔法神官の軍団を多く編成していた。そしてロッドハート団長は、奴らに何かを売りつけておりました。あれは間違いなく、魔力を最大まで回復するポ―ションだ。」
「何が狙いなのでしょうか。」
セリは話しを続ける。
「クレーモスタウンから王国軍が進軍し、ダーマ山ふもとは戦場になりましょう。頃合いを見て、我々は、戦場に突っ込み、商品を仕入れます。皆様方にはその護衛をお願いします。」
そうか。魔王軍側は、上級闇魔法を使うつもりだ。その為に上級魔法神官の兵団を編成した。となれば夜はまだ続く。
空に太陽が昇り始めると、追撃の為にクレーモスタウンの門が開いた。多くの兵達が出陣の合図を待ち、並んでいる。そして王国軍将軍ガンドルスが、出撃の号令を成した。
兵達は雄叫びをあげて走り出した。だが、空の色は朝日が昇ると共に明るくなると思いきや、だんだんと暗くなっていく。ダーマ山より、怪しくも奇妙な闇のオーラが空高くに上り、集まり始め、黒い球状の塊が生まれた。それは太陽を食らうように巨大化し、やがては空色が完全に夜に戻ってしまった。
「日食だ。魔王軍は撤退しない。」
怒号が聞こえた。ダーマ山から大勢の魔王軍がまるで雪崩のようにして進軍を開始する。山の中腹部で戦っていたクレーモスタウン守衛隊はその勢いに圧倒され引き返してきた。まさかの状況にクレーモスタウンから出撃した勇者候補者達は困惑し、一人、また一人と逃げ始める。
「さぁ皆様、はじめますよ。ロビン。」
「はい。」
セリの号令でロビンが手をあげると私の体から黒い霧が沸きだした。これは彼女の闇魔法で、魔王軍の鎧に施されたものと同じものだ。これにより我々は、その素性を人にみられる事はない。キャラバン団員らも身に黒い霧を纏い、出撃に備えた。
私は、リン、ダダラ、ライジャとキラリと班を組み、ロビンとセリを守る役割を担う。ロッドハートは、優雅に荷台の上でタバコをふかし始め、彼を囲む形で全員が整列させられた。
「よいか、ここからが本番じゃ。数多くの仕入れができた班の者には追加報酬を与えよう。ライトベル側は、まさかの魔王軍の作戦に混乱し、魔王軍側は勇者候補者たちを素人だと思ってなめきっておる。どちらも死者が多く出る。日食の魔法もこれより一時間じゃ。それまでに両軍は撤退するじゃろう。」
「は!」
「あと、ライトベル側の騎馬隊に目を付けられたら逃げよ。騎馬隊そのものは雑魚じゃが、それを率いるガンドルスは強いぞ。さぁはよいけ。」
「はは!」
我等は戦地へと駆り出された。
数は王国軍の方に利があるが、兵の質や地の利は魔王軍にも利がある。またこれを見越してのキャラバンがばらまいた品々がほどよい案配にどちらも引けをとらぬ戦いを展開させていた。我々セリ班は、北東側の死体の山へ向け進軍をはじめた。
「さぁいこう!」
ただ、そこまでいくのには激戦区の中をくぐっていかなければならない。王国軍からすれば黒い霧を纏った我々は、魔王軍のように見えてしまう。
「あぶない!」
キラリに向けた剣はライジャが防ぎ、ライジャに飛び交う矢をリンが防ぐ。
「おのれらあああ!」
威嚇のためかドスの聞いた声で、王国兵が私めがけて魔法弾をなげうってきた。飛んできた魔法弾は光魔法。だが幸いにもその王国兵がなげうった光魔法弾は私のものよりも弱いもので、闇属性の魔法を纏った銃弾、魔弾で事が足りる。私の放った魔法銃弾は、光魔法弾の力を吸収し、王国兵の胸へと命中した。
「いいぞ。レール。」
リンは、闇魔法によって作り出した魔法の剣で王国兵を切り付け、そして二人目のクビをおとした。そして、彼女はあろうことか殺した王国兵のカブトを奪い、それを砕くと、その装飾品をポッケにしまいこんだ。
「何をしている!?」
「こうして自分への報酬を増やすのさ。箔が好きな王様だ。鎧の装飾品もそれなりのものを使っている。金になる。」
「ぼさっとするな。早くしろ!」
ロビンの一声に私達は急いだ。
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