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07キャラバン連合(文字数3227)
4年の月日が流れた。
私の才能はポーカー氏のキャラバンで開花し、大いに役立つことができた。今ある財はあの報酬を元に、全てこの間に溜めたもので、私の才能が連続的大利益をこの4年の間に何度ももたらしてくれたのだ。
どれもこれも、ツクバのキャラバンでの一晩から得た技術が役立ってくれたが、あの後、彼らの行方は分からないでいた。
王国の情勢、戦争は未だに続いており、魔王軍の侵攻も王国軍の防衛いずれも引けを取らず領土の変化もさほどない。
クレーモスタウンは相変わらずの戦場で、もしかしたら未だにツクバのキャラバンが暗躍しているのかもしれない。
「若旦那。」
私はこのキャラバンで若旦那と呼ばれるようになっていた。そして私は自分の事務所を設け、多くの部下が従えている。
私の部屋を訪れたアランは、元々盗賊を家業としており、私のキャラバンを襲った盗賊団の一人であった。
「いかがしました?」
「ダムのキャラバンがとうとう折れ、我等のキャラバンの傘下へと入りました。」
「うむ。よろしい。」
私は、キャラバン連合というものを立ち上げ、いくつものキャラバンとの協力体制を強化した。だが、これは、私の新たな商売の一環で、仲良しごっこがしたいわけではない。
協力体制と聞けば聞こえの良いものだが、売り上げの何割かが元締めの私の元へと入ってくる仕掛けとなっている。代わりに我々は安全な経路と仕入れ先と我々のキャラバン内においての独占を約束する。
我等が一括して交易ルートを管理している為、ばったり、売り先でライバルと出くわすことがない。個々のキャラバンの売り上げが上がれば我々に入る報酬も増える。
4年という短い期間で大きな富を得たのはこのシステムを誰も思いつかず、私が最初に考えて確立したことにある。だが、それにも問題はいくつかあった。
「アラン、盗賊団の事は何か分かりましたか?」
その一つが盗賊だ。彼らに襲われ荷物を全て奪われてしまえば、全ての儲けはパーだ。寧ろ仕入れ代金分、我等にとって損することとなる。
「いいえ、未だわからず。」
それも私達の仕事は売るのが仕事だが、恨みを買ってしまう事があるようで、キャラバン連合は何者かから目を付けられているようだ。
何を隠そうこのアランも盗賊団の下っ端の下っ端であったようで、生け捕りにした際には、私にそのことを白状し命乞いをした。
「分かりました。アラン、もう一度確認しましょう。貴方が所属していたダラグ盗賊団は、何者かの依頼を受け我等キャラバン連合を狙ったわけですね。」
「はい。ですが、前にもお話したように、ダラグ盗賊団は依頼を受けただけで、私怨でこのキャラバン連合を狙う理由はありません。」
「問題はそこです。何者かが報酬を出してまで我々を狙っている。」
分からないのはそこだ。盗賊団を返り討ちにしたのはダラグ盗賊団が初めてではない。他の盗賊らも何者かの依頼を受けたと証言している。
元々、盗賊は荷台を狙う商人たちの脅威ではあったが、何者かが裏を引いているとなればより話は複雑だ。
何より、キャラバン連合に加盟すれば盗賊に狙われるという噂は、広まりつつあり、キャラバンの規模を拡大する為の障害となっている。
「仕方があるまい。多少、金はかかりますが安全に変えられん。傭兵を増やしましょう。明日、憲兵団との会合があります。そこでも、今回の話しを持ちかけてみよう。」
「かしこましりました。」
生け捕りにしたアランは私の秘書として活躍してくれていた。彼を雇ったのは勿論、理由がある。まず、私の哲学の中に「味方は近くに、敵はもっと近くにおくべし」とあり、これができない者に成長はないと考えている。
私には権力があり、人事の選抜は容易い。敵であろうとも味方であろうとも有能であれば側に置き、意見に耳を傾ける。味方であれば私に遠慮し口を紡ぐところ、敵であれば容赦なく私の痛手をついてくるだろう。
逆をいえば、私自身の弱点を知ることができる。もっと言えば、この私の戦略は、周囲の者々に私の度量のでかさを知らしめることができる。例え私の本性が小物であったとしても周辺は私の器を実物より大きく見ることだろう。
そして、我等キャラバン連合は表の顔という点。裏の顔は、ツクバのキャラバンのように健全な物ではない。一部盗賊を雇い入れ、ライバルキャラバンの品を奪い、裏世界で販売する事もないことはない。つまるところ、私が商売の大成功の本当の理由はそこにあるのだ。私が踏み入れた市場はツクバのキャラバンと同じく闇家業なのである。
翌日、私は王国へと足を運んだ。私の経歴を聞けばきっと誰もが驚くだろう。高貴な馬車に乗り、城門をくぐる私が、貧乏教会の従者の出だと誰が信じるだろう。
馬車の中から外を眺めれば多くの人々が私の馬車を認識し、頭を下げつつ、尊敬の眼差しを向けていた。
城にたどり着き、出迎えたのは憲兵長の一人であった。
「ごきげん麗しゅう、レール卿。ナモス将軍がお待ちです。ご案内いたします。」
「あぁ、遅刻してすまない。先日の雨で、地がぬかるんでおりましてね。ナモス将軍にはお詫びをいれねばなりません。」
「いえいえ、レール卿の王国への貢献を考えればこれぐらいの遅刻、なんてことありませんよ。」
相変わらずいけ好かない男だ。この憲兵長は、かつて行われた勇者選抜試験の際、私を見下していた者の一人だ。下座にいようが上座にいようが鼻につく。小物であるくせに大物にみせようと貴族のような髭を生やしているのが余計、癪に障る。
だが、彼はもはや私に頭が上がらない。いまの私ならばこの男を憲兵長の地位から突き落とすことだってできるのだから。これが権力の味か。
私は、会合室へと招かれた。城の中にはいままで何度も訪れたが、目がチカチカして慣れるものではない。ライトベル国王は見栄えばかりを気にする。だから、趣味ではないが派手なマントを羽織ってきてやった。
「これはこれは、レール卿、ようこそお越しに。」
「ナモス将軍、どうですかな?魔王軍との戦いは。」
「はっはっは、間もなく魔王軍は殲滅される事でありましょう。レール卿の御助力があればですが。」
ナモス将軍もまたあの憲兵長と同じく小物臭を漂わせる男だ。体も細く、仕草に気品を感じられないというのに将軍職に就くとは、必ず裏がある。
部下に調べさせたところ、元は貴族の生まれだとか。私も職業柄、コネクションの力を理解しているが、故に形と中身が釣り合っていなければ余計に貧相に見えてしまう事をこの男に教えてやりたい。
「申し訳ないが、我等は民の味方です。王国には税金という形で献上しておりますがね。」
「そこをなんとか憲兵団の方に直接献上して頂きたいのですが。」
私はレール卿と呼ばれるまでの大出世を遂げた(とは言ってもこの国では、爵位を持たずとも特権を与えられた者を卿をつけて呼ばれる)。それは国王に対し多額の税を献上した為に成し遂げたもので、憲兵団は私の眼中にない。利益にならないからだ。
彼らはただの兵士で、彼らに媚びを売ったところで売った分の見返りはないだろう。……という事にはしてあるのだが、正直のところ私は、憲兵団の裏にいるであろうツクバのキャラバンを警戒してい為にあまり関わりたくなかった。
ツクバのキャラバン。彼らに対する敬愛と、同時に抱く底知れぬ恐ろしさから、彼らの市場を奪う事をしたくないのだ。きっと憲兵団たちは彼らの存在に気が付いていないだろうが、利益の為に憲兵団を裏からコントロールしているだろう。
「申し訳ないがナモス将軍。王国に多額の税を払っております。直接ではありませんが、貴方方にも協力しておるつもりなのです。それより本題に入りましょう。」
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