4人が本棚に入れています
本棚に追加
08王国からの依頼(文字数2839)
ナモスは、明らかにふてくされながら椅子にドンとすわり、私にも座るように促した。いくつかの資料を取り出し、私に差し出してくる。
「では、本題に。ジャイアンツランドの町で、食物物資に困っておりまして、補給も間に合っておりません。」
「税で賄えない程ですか。」
「えぇ、残念ながら。戦争が起きていますからねぇ。増税を検討する声もありますが、これ以上の増税はなかなかリスクが高いのです。リリー砦が魔王軍に寝返った件もありますから。我々だけの力ではなかなか解決できないのですよ。」
リリー砦の離反事件は一年前に起きた事件だ。元よりリリー砦は、憲兵団内の問題児の左遷先でもあり、危険度が高かった事もあり、案の定の謀反であったが、その原因は王国側が支給品を減らしたり増税を促したりといった嫌がらせにあったようだ。
「そこで、あなたに助けて欲しいのです。王国側に出来ることは既にやりました。ですから民間側からの協力をお願いしたいのです。」
「我等も商売でやっているのですが……。ならばこういうのはどうでしょうか。私のキャラバンを貴方にお貸ししましょう。あくまで国が用意したキャラバンが、安く食糧を提供した程で行くのです。」
「ほう、なるほど。続けてください。」
「商売自体は我々がいつも通り指揮しますが、貴方様の名前を使ったキャラバン隊を編成します。国民は国の情勢もわかっているでしょうし、物資の配当ではなく商売であったとしても多少は大目にみてくれましょう。安値で食糧が流れればよいのです。あなたの名前のキャラバンならば、国として民に顔が立ちます。」
ナモスはプライドの高い男だ。彼をいい気にさせることは容易い。私の案に対して彼は案の定の笑みを浮かべた。
「貴方方王国が我々を派遣したという形が大事なのです。ただ他のキャラバンの方々もいるかもしれません。キャラバン内での競争は極力無くしていますが、所属しないライバルキャラバンもいる。薄利多売という形で商売は成り立ちますでしょうが、ライバルがいては利益が出ません。我等のキャラバンが安く食糧を提供する旨を予め宣伝してくれませんか。我等の手では一杯でして。」
ナモスは更に上機嫌な笑みを浮かべた。彼は承諾し、彼の部隊が我々に協力してくれるだろう。この戦争時、彼の部隊は暇なのだ。
「分かりました。そこはこちらで手配いたしましょう。」
王国の依頼はいつも利益が少ないが、また別の報酬が得られる。王国公認という看板を掲げることができる上、王国との絆が強まれば、部下たちの士気があがり、領土内での商売がやりやすくなるのだ。
だが、私は傲慢にももう一つ、ナモスに頼みごとをしようと攻めに出た。
「いやはや痛み入りました。我々に協力を要請すれば、良い結果になると踏んでおられたのでしょう。国王陛下が考えられた案ですか?王国への忠誠心を高めつつも、国民の為に配慮した案。何より、私達キャラバンにもうま味がある。明采配ですな。」
「くっくくく……実のところですな。この案は私の案なのですよ。」
違うだろう。今、私が提案したではないか。つまるところナモスはアホなのだ。
「さっそくナモスキャラバンを編成いたしましょう。」
と私は笑ってみせるも、いやまてよと小声でつぶやき、考え込んだ……という姿を見せつけた。
「いかがなさいましたか?」
「いえ、実は、大量の食糧を運んだ時に問題が。実は、最近、我等キャラバンは盗賊に狙われております。どうやら、盗賊たちが、狙っているようなのです。そうだ、憲兵団の方々に私のキャラバンの護衛をもお願いしたいのですが。いかがでしょう?」
するとナモスは笑って見せた。
「はっはっは、構いませんよ。どの道兵はお貸ししますのでこき使ってやってください。」
「これはありがたい。」
ナモスという男は単純な男だ。自分の名前が付けられたキャラバンの護衛の為に30名の兵を貸し付けてきた。これは国の支給品の護衛部隊に匹敵する数だ。私は、無料で護衛を手に入れた。
その時だ。部屋の扉は思い切り開かれ、大男が入ってきた。ガンドルス将軍だ。
「ガンドルス将軍、無礼ですぞ。」
「無礼をお許しください。レール卿にお話があります。」
ガンドルスはあの時と変わりなく、何をしても威圧的であり、将軍たるにふさわしい男である。だが、それは敵に対してであって、私と一度会っている事を彼は知らない。今の私は彼にとっての客人であり、彼は客人に対しては多少不器用で無礼であっても敬意を払う紳士であった。
「それで、ガンドルス将軍、私に何用ですか?」
「レール卿、貴方が来たときに確認しておこうと思っていた事があります。この紋章をご存知ですか?」
彼は布きれに描かれた一つの紋章を私に見せつける。それは、髑髏に歯車が取り付けられた模様であった。
「これは?」
「最近、多発している盗賊団の元締めグループが使っている紋章を発見いたしました。これが奴らのシンボルです。何かご存知ないかと。」
盗賊団の元締めグループ。もしや、私のキャラバンを狙う連中の依頼主か。しかし、この模様は初めて見た。
「見た事はありません。先ほどもナモス将軍と話しをしておりましたが、我々キャラバンはどうも盗賊団に目を付けられているらしく、標的にされます。我々も敵の正体を探っておりますが、盗賊団らは同じ依頼主に依頼されて強奪を行なっているとのことしかしりません。もしかすれば、この紋章のグループが依頼主やもしれません。」
「かもしれませんな。我々の調べによると彼らは闇属性を持つ者達によって編成された軍団であるという事。そして、多くの盗賊団を傘下にしている大軍団の元締めだという事が分かっています。」
「ほっほー、キャラバン連合ならぬ、盗賊連合ですか。でははは。」
ナモスは笑うが、笑いごとではない。私とガンドルスの威嚇の目つきが彼を黙らせる。
「誰が一体こんなことを。」
「分かりません。我々は傘下盗賊団グループの一つを攻め落とし、その統領を尋問したところ、元締めは『機械仕掛けの骸骨』と呼ばれていることがわかりました。」
「聞いたことありません。分かりました。幸い、次の仕事は、ナモス将軍の兵が付いています。敵を生け捕りにしましたらそちらに送りましょう。そしたらその機械仕掛けの骸骨について尋問してください。」
ガンドルスは私に深々と礼をして部屋を去っていく。敵にすれば恐ろしいあの男は、今や私の敵に目を付けている。敵の敵は味方というが、なんと心強い事だろうか。
「では、その手筈で。では私は早速戻り、各キャラバンと食糧の仕入れについて話し合いましょう。」
「ありがとうございます。あぁ、そうだ。ポーカー氏はお元気ですか?」
「えぇ、ただ、相変わらず寝たきりで。多分、回復は難しいでしょう。」
「そうですか。」
私は城を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!