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男は路地を歩きながら呟いていた。
「なんでだ……。俺は……俺は勇者なのに……」
汗を洗い流そうとするかのように、頭から残っていた水を浴びる。そして、空になった水袋をその辺に捨てた。その目には何かしら決意の光らしきものが見えた。
「旅だ。もう一度旅に出よう。そしてもう一度……」
彼はくるりと踵を返した。
向かうべき場所がようやく見えたのだ。
「デービス。あいつが必要だ……」
呟いてそちらに向かう足取りは、先ほどまでの虚ろな物よりは少ししっかりとしていた。
だが、物事はそう簡単には進まなかった。
目的の方角へ歩き、路地を出て少し広い通りに出たところで、彼は武器を持った集団に取り囲まれた。
粗末とはいえ鎧の類も身に着けている彼らは、いわゆる傭兵だった。
もちろん、それほど性質の良くない連中だ。
彼らは、先ほど男がぶちのめしたチンピラの兄貴分だった。
「あっさり帰れると思ったか? 悪いがそうはいかねぇ」
「悪いが君達に構っている暇はないんだ」
男が言うと、傭兵達は一斉に笑った。
「お前に無くてもこっちはどうあったって構って貰うぜ」
弟分をコケにされた事は、彼らにとって許しがたい事だった。
「なぜだ? なぜ俺の邪魔をする?」
「なぜだと? 人の弟分を殺しておいて、なぜもあったもんじゃねぇ!!」
「さっきのアイツか。あれは向こうから絡んできたんだ。確かに、腹が立って強く殴りはしたが」
「ふざけんな!! そんな言い訳が通用するとでも思ってんのか!!」
どちらから手を出したか、なんてのは傭兵達にとってどうだって良い事だった。
大切なのは、弟分の敵を討つこと。
もっと言うと、自分達の仲間に手を出せばどういう事になるのかを周りに見せつける事だ。
「君達は、俺が何者なのか知らないのか?」
「知る分けねぇだろ!! やっちまえ!!」
リーダー格の傭兵が上げた声で、他の傭兵達は一斉に男に襲い掛かった。
男は悲しげな表情で小さく首を振った。
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