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デービスとカニング
かつては吟遊詩人として諸国を旅したデービスは、今では町はずれの屋敷に腰を落ち着ける身分となっていた。
その屋敷に客が訪れた丁度その時、街の一角では大きな爆煙が上がっていた。
客の名はカニング・オルコットと言った。彼はこの国にいる兵士全ての頂点に立つ、将軍という役職についている男だった。髪はもう真っ白だったが、それでも短く綺麗に刈り込まれていた。鷲鼻で眼光は鋭く、厳しい顔立ちの男だ。
「派手にやってくれる……」
窓から爆炎を眺めながら苦々しい口調でいうカニングに、屋敷の主であるデービスは酒の入ったグラスを手渡した。
「最悪ですね」
「やはり手元に置いて監視すべきだったか……」
「城勤めをことのほか嫌がっていましたからねぇ」
「旅に出る前からそうだった。実に扱いにくい奴だ」
「仲、良くなかったですもんね」
「ふん」
カニングは苦々しい表情で酒を飲み干した。
空のグラスに笑いながら酒を注ぐデービス。
二度目の爆音が屋敷の窓を震わせた。黒煙が上がっている。
「兵に追わせていたのでは、被害が大きくなるばかりでは?」
「いや、あれは違う。兵には手を引くように言ってある」
「では、あの爆発は何でしょうね」
「ならず者共にケンカを売ったか、あるいは売られたか。どちらにせよ、あの辺りはもともと治安も良くない。いっそすっきりするかもしれん」
爆炎を見つめるカニングの目はどこか感情に乏しかった。
「しかし、なぜ急に……」
デービスが呟くと、カニングは振り返って小さく笑った。
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