デービスとカニング

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「あいつが結婚していたのを知っているか?」 「ええまあ。エミリアさんでしたっけ? 若い奥さんでしたね」 「そうだ。そのエミリアが、アイツを捨てて逃げたらしい」 「ほう……」 「相手はボルゾー」 「ボルゾー? あの学者ですか?」  目を丸くするデービス。カニングは表情を変えずに一つ頷いた。  ボルゾーはいくつもの遺跡を探索し、成果を上げている有名な学者だった。学者と言いながらもその出で立ちは冒険家そのもので、学者とは思えぬ逞しさがあった。そう言った部分も含めて、彼は今、この国でもかなりの有名人であった。 「どういういきさつかは知らんが、置手紙を残し彼女は出て行ってしまったらしい」 「なるほど、彼にしてみれば、最も負けたくない相手でしょうね」 「迷宮や遺跡など腐るほど潜ったしな。恐らく、一騎打ちをすればアイツは勝つだろう」 「ええ、老いたとはいえ、世界を救った英雄に違いはありませんから」 「随分前から研究も止まっていて、金も無かったと聞く。だが、奴なりに一生懸命家庭を成り立たせようとしていたようだ。派遣会社に登録して働いていたと聞く」 「相当なストレスがかかっていたでしょうね」  デービスは悲し気に目を伏せ、小さく溜息を吐いた。 「結局、エミリアは出て行った」 「エミリアが出て行ったのが、恐らく引き金となったのでしょうね」  デービスの言葉にカニングは深く頷いた。 「どうしますか?」 「我々の手で止めるしかあるまい」  そう言って、カニングは空になったグラスをデービスに手渡した。  傍らに置いていた剣を手に取り、再び腰に下げる。 「勇者を名乗りながらの破壊行動は見捨てておけんだろう」 「実に残念です」  デービスは苦笑交じりにそう言って、空になったグラスをカウンターの上へと置いた。 「それに、今回の騒ぎは勇者を正式に葬るのにちょうど良さそうだとは思わないか」 「なる程、ようやく事実に追いつくというわけですね」  デービスの言葉に、カニングは唇の端を吊り上げるようにして笑った。
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