勇者の正体

1/3
前へ
/28ページ
次へ

勇者の正体

 騒ぎのせいで人の姿が無くなった広場に男は差し掛かった。  その視線の先には、彼を待ち受けるように二人の男が立っていた。  男は広場に立つ二人、デービスとカニングの姿を見るとしかめていた顔をほころばせた。 「デービス!! カニング!!」  男は返り血で水玉模様のついた手を振り、二人に呼び掛けた。 「お久し振りですね」  デービスは笑っているようないないような、表情の読めない顔で一歩進み出て静かな口調でそう言った。 「相変わらずだな、デービス。カニングも元気そうだ」 「元気なものか。最悪の気分だ」 「お前の口の悪さも変わらないな。ははは」  気軽な口調は、その血に汚れた出で立ちとあまりにちぐはぐだった。 「どういうつもりだ?」 「何がだ、カニング」 「どういうつもりで街を、この城下に広がる街で騒ぎを起こす?」  カニングが指さす先には、まだ黒煙が立ち上っていた。 「別に騒ぎを起こすつもりなんかない。ただ……」  男は肩を竦めて言葉を濁した。 「ただ、なんだ?」 「俺を知らないと言うんだ。この国の為にこの身を犠牲にして戦ったこの勇者を!!」  男の言葉に、デービスとカニングは顔を見合わせた。 「何を言っている? お前は勇者なんかじゃない」 「いいや違う。俺は勇者だ。ハルステッドだ。お前達がそう言ったんじゃないか」  口から泡でも吹きそうな口調で男はまくし立てた。 「あの廃村の墓場……忘れたとは言わさんぞ」 「喋り過ぎだコーウェン」  カニングの静止も意に介さず、コーウェンはさらに言葉を続けた。 「俺がハルステッドだと言ったのは、カニングお前だぞ!!」  カニングは仕方ないと言わんばかりに溜息を一つ吐いた。 「変化の術を使えるのはお前だけだったからな。だが、それももう終わった。お前は勇者じゃない」  そう言いながら、カニングはゆっくりと腰に下げた剣を抜いた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加