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「こんにちは、若い人」
「う、あ、は、はいっ?」
若者は驚いた顔をデービスに向けた。
近づいてみてわかったが、彼は肩に大きな傷を負っていた。恐らく魔法で貫かれたのだろう。傷口の周囲は黒く焦げている。全身すすや埃に塗れ、衣類には血が飛び散っていたが、怪我らしい怪我はその肩口の一か所だけだ。爆炎の中を人々を救うのに奔走していたのだと容易に想像ができた。
そして今、彼は困惑の目をしていた。
「私はデービス。ご存知かな?」
「はい、もちろんです。あなたの勇者の伝説は有名ですから」
「有難い事です。それで、貴君は?」
「自分はクレイグと言います。衛兵団の者です……」
「やっぱり。その鎧を見てそうではないかと思いました。酷い怪我ですね」
「いや、これしき。それよりも、カニング隊長は一体何を……」
戦いの方を指さすクレイグに、デービスは静かにするようにと、人差し指を自分の唇の前で立てて見せるジェスチャーで伝えた。
「手当てした方が良い。肉が焦げていますからね。腕のいい治療師を知っていますから、そこへ行きましょう」
「で……ですが……」
「貴君の知りたがっている事をお教えしますよ。こう見えて、色々知っているんです」
そう言って、デービスは彼にウインクを一つして見せた。
もう皴の増えた顔だが、クレイグの目には何となくそれがチャーミングに見えた。
「わ、分かりました」
「では、行きましょう。ここでボーっとしていては、いつ流れ弾が飛んでくるともしれませんから」
そう促されるままに、クレイグはデービスと共に歩き出した。
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