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クレイグ・ダンヴィル
クレイグ・ダンヴィルが話を終えると、聞いていた二人の甥っ子達から早速質問が飛んできた。
「ねえねえ、勇者様はどこに行ってしまったの?」
「彼は、世界のどこかで困っている人を助けているんだよ」
「勇者様の仲間は?」
「この国のどこかにいるかもしれないね」
「世界の危機ってなぁに?」
「そりゃ、魔王みたいなやつがもう一度現れる事さ」
「魔王、また出てくるのー?」
嫌だ、怖いと顔をしかめる二人の頭をくしゃくしゃっと撫でて、大丈夫だよとクレイグは笑って見せた。
その時、玄関の方からただいまという声が聞こえた。
「ほら、ママが帰って来たぞ」
ママーっと叫び声をあげて玄関へ走っていく甥っ子達。
やがて、買い物かごを下げて足元に二人のちびっ子を纏わりつかせた妹のエリザベスがリビングへと入ってきた。外は暑かったようで、額には汗の球が浮いている。
クレイグは留守番と子守を頼まれていた。彼女の夫はすでに亡く、エリザベスは一人で二人の子を育てていた。そんな彼女を兄として支えたいとクレイグは日頃から考えていたから、良く留守番なども引き受けていた。
「ごめんね、兄さん。せっかく午前中休みだったのに」
エリザベスは申し訳なさそうに眉を寄せてクレイグに礼を言った。
「気にするな。可愛い甥っ子達に会えて俺も楽しかったよ」
「そう言ってくれると助かる。これ、お礼」
買い物かごからエリザベスが取り出したのは、小さな干し肉の塊だった。
「こんなの良いって。お前は、この子達の世話に全力を尽くせばいいんだから。何かあったらいつでも言うんだぞ」
差し出された干し肉を、その手ごと彼女の方に押し戻してクレイグはそう言った。
「ごめんね、ありがとう」
「いや、俺の方こそ、本当なら妹であるお前を助けてやらなくちゃいけないのに……」
衛兵の給料は決して高くない。
「そんな、とんでもない。兄さんは私達を助けてくれているわ」
「いいんだ。それじゃ、そろそろ俺は行くよ」
クレイグは彼らの暮らす城下町を守る衛兵団に所属していた。
今日は午後からの出勤で良かったため、こうして午前中は甥っ子たちの面倒を見に来ていたのである。
「うん」
クレイグは頷く妹の額に軽く口づけをして、そのまま家を後にした。
またねー、という子供達の元気な声を、彼はとても嬉しく感じた。
外に出ると、強い日差しがクレイグの頭上から降り注いできた。
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