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ツルハシの男
暑い季節だった。
空は濃い青色に広がり、大きな白い雲がくっきりとしたコントラストを描き出している。
石畳は降り注ぐ陽光を容赦なく照り返し、路上には陽炎が立ち上っていた。
誰もが汗を流しながら道を行きかう。
日差しがどれだけ厳しくとも、気温がどれほど高くとも、人々が生きるための営みが止まる事は無い。その一つが労働である。
どれだけ暑くとも鍛冶屋の工房には熱気が溢れ、酒場では怒声が飛び交い、鉱山では男達が重たいつるはしを振るう。露店商は声を張り上げて客を呼び、物乞いはどれだけ邪険にされようとも人々の好意を欲するのだ。
一人の男が城下町の石畳を歩いていた。
初老で、白髪混じりの無精ひげを生やしていた。日焼けした茶色の肌に、くっきりと年齢を感じさせる皺が彫り込まれている。その皺の一つ一つから汗を滴らせ、それを時折腕で拭っては歩き続けていた。
肘や襟の部分が擦れてぼろぼろの草臥れた上着。
継ぎ当てだらけで足首がむき出しのズボン。
穴の開いた帽子をかぶった彼は、肩に大きなツルハシを担いでいた。
ツルハシの柄を握る手は、がっしりとした大きな手。袖から覗く腕も引き締まっているように見えた。
「現場はどこだ?」
ツルハシを持っているのと反対の手で持っている紙切れ。そこに地図でも書いてあるのか、紙に汗を垂らしながら、それを時折見ては石畳の道を歩き続けている。
男はイライラしている様子だった。
「クソ、分かりにくい地図だ。どこなんだ現場は!?」
紙切れを見ながら、ぶつぶつと悪態をついている男を、通りを歩く人々は怪訝な目で見ていた。何しろ男は何度も同じところを行ったり来たりしていたのだ。
やがて男はツルハシをその場に投げ捨てた。
「やってられるか、こんな事!! 俺を誰だと思っている!!」
そう叫び、そのまま歩き去ろうとする。
「おい、そんなところに道具を置いて行くなよ」
通行人が去ろうとする彼の背中にそう声をかけた。
「だったら貴様にくれてやる!!」
男はそう叫び、そのまま細い通りへと歩いて行った。
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