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路地裏
男は日陰になっている路地裏で水を飲んでいた。
「はあ、生き返る……」
路地裏の石段に座って水袋を傾ける男のところへ、猫背で痩せぎすの風体の良くない男を先頭に、何人かで近づいた。明らかにチンピラ集団だった。
「おう、おっさん」
そう言ったのは、先頭にいた痩せぎすの男だった。
だが、水を飲んでいる男は、特にかまう様子も見せなかった。
「てめー、シカトこいてんじゃねぇぞ」
痩せぎすの放った蹴りが、男の水袋を蹴飛ばした。
「おいおい、何をするんだ。邪魔ならどこかへ行くよ」
そう言って男は立ち上がり、水袋を拾おうとする。
だが、痩せぎすの足が、それを少し離れたところに蹴飛ばした。
「おいっ、何をする!?」
激高した男が痩せぎすを怒鳴りつけた。
「うるせぇ。舐めてんのか?」
「だから、立ち去ると言ってるだろう。水を足蹴にするんじゃない。俺が誰だか知らないのか?」
そう言って、男はもう一度水を拾いに行こうとする。
だが、今度は痩せぎすがその前に立ちはだかった。
「舐めてんのかって言ってんだよ、コラ。やっちまうぞコラ」
どん、とその手で男を吐き押す。
「ええい、やめろっ!!」
男が叫ぶと同時に、彼の右拳が痩せぎすの顔に直撃した。
勢いよく痩せぎすの顔が横に振られた。その衝撃でがっくりと膝をつく痩せぎす。口元と鼻からは血が流れ出していた。
「てめぇ、やりやがったな?」
彼は腰に付けていた短剣を引き抜いた。
「ぶっ殺してやる」
「よせ、争う気は無い。俺はゆ……」
「うるせぇ!!」
男の言葉を遮り、痩せぎすは短剣を構えて男に襲い掛かった。鋭いとは言えないが迷いのない短剣の一撃を、男は容易くかわす。
「よせ、君では俺に勝てない」
「黙れ。お前らもやれっ!!」
痩せぎすが手下に命じる。彼らは一瞬顔を見合わせたが、覚悟を決めたようにうなずき合うと、持っていた短剣を鞘から引き抜いた。
「止すんだ。俺は君達に興味なんか無い」
だが、彼らはそんな男の言葉に耳を貸さなかった。
「死ねぇ!!」
痩せぎすが短剣を構えて再び襲い掛かるのと、電撃が走るのは同時だった。
肉の焦げる匂いがあたりに漂った。そして、その中心は黒焦げになった痩せぎす。
探検を振り上げた姿勢のまま黒焦げになった彼は、そのままその場に倒れた。
「し、死んだ?」
「嘘だろ、ちょ、しっかりしてくださ……うぇっ」
「ダメだ……うげぇ……」
痩せぎすの漂わせる匂いに耐え切れず、その場で吐き始めるチンピラたち。男だけはそれを意にも介さず、水袋を拾ってまた歩き出した。
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