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大きな落とし物
クレイグが通りの人だかりに出会ったのは、衛兵団の詰め所に向かう途中だった。
今のクレイグは、胸当てだけの簡易的な鎧を身に着け、腰に剣を下げている。一度自宅に戻って支度してからここに来た。胸当てには衛兵団の紋章が焼き付けられており、それが彼の身分を一目でわからせていた。
「どうしたんだ?」
彼が尋ねると、面倒くさそうに最後尾の男が振り向いた。
そして、彼の鎧に着いた紋章を見て慌てて姿勢を正す。
「ツルハシが置き去りにされているのです」
男は畏まった口調でそう言った。
その態度の代わり様に苦笑しつつ、礼を言い、それから彼は人混みをかき分けて人だかりの真ん中に歩み出た。
先ほどの男が言ったとおり、そこにはツルハシが落ちていた。
かなり大きなものだ。
大掛かりな工事に使われるものだが、あまり持ち歩く様なサイズでもなかった。
人通りの多いこの通りに落ちていては確かに邪魔だった。
「君、悪いけれど、衛兵団の詰め所に行って人をここにやるよう言ってくれ。クレイグが呼んでいると言って貰えればいいから」
手近な男を捕まえて、クレイグは言伝に走らせた。
それから周囲の人間に聞き込みを始める。
つまり、誰がこれをこんなところに置き去りにしたのか、という事だ。
すると、ボロボロの上着とズボンと帽子を身に着けた汗だくの男がこれを置いて行ったのだと分かった。
「一人でこれを?」
クレイグは自分の身長ほどもあるツルハシを、試しに持ち上げてみた。
衛兵は剣のほかに長槍なども担いで街を巡回している。力には自信のあったクレイグだったが、一人でそれを担いで街を歩き回ると言うのはいささか骨が折れるように感じた。
「随分と力自慢だ」
そう呟いてツルハシを下ろす。
ふと、その柄に特徴的なマークが焼き付けてあるのを見つけた。これを手掛かりにすれば、持ち主が分かるかもしれない。
そう思いながら、クレイグは応援が来るのをそこで待っていた。
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