第1話
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第1話

 弟はよく食べる。見ているこちらが気持ちいいくらいに。  育ち盛りの運動部ということもあるが、昔からよく食べた。弟が小学校四年の頃からすでに、五つ年上の俺より食べる量が多かったくらいだ。身長を抜かれたのは中学に上がった時。  口に入れ、噛み砕き嚥下する。消化吸収したそれらが血になり肉になるのだと知らしめるような逞しい体つき。母子家庭で、小学生の頃から家の家事を担当してきた身としては、弟の強靭な肉体を作る一端を担った気がしてなんだか誇らしい気もする。  俺が初めて台所に立ったのは小学校二年。なかなか早熟だと自分で思う。最初は包丁や火で怪我をしないようにするのが唯一課せられたノルマで、慣れてくると家族に美味しいと言ってもらうことが目標になった。  弟は物心ついた頃から俺が料理をしているところを見ていた状態な訳で、そのせいか年長組の時に、将来『お兄ちゃんをお嫁さんにする』と言い出して保育士さんを慌てさせたという逸話がある。俺はそれを聞いて、早急に弟のあらゆる認識を正さないとな、と思うと同時に少し嬉しくもあった。だってお嫁さんにしたいってことは、俺が好きだということで、ずっと俺の手料理を食べたいと思っているってことだから。  たまに思い出してその話をすると、思い切り不機嫌になる。そこがまた可愛いと思って、俺は何度もそれをくり返してしまうんだけど。  朝の走り込み後、冷蔵庫の牛乳を一気飲みするのが弟の、篤己の習慣だ。コップに移さず、そのまま紙パックに口をつける。1リットルを一気に飲み干すので、不衛生だなんだとも言えないし、行儀が悪いからやめろと言ってもいつまで経っても聞かない。
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