神様のイタズラ

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 神様はイタズラが好きらしい。私は今、テレビで流れるニュースを見て思った。  世間は遅れてやってきた梅雨に翻弄されている。私もその中の一人で、昨日の天気予報に従った結果、洗われた衣服たちを持って雨が降る空をチラリと見た。だが、こんな程度ならマシだとニュースを見て思う。  九州ではこの雨によって大きな水害が引き起こされている。地元の人たちは大切な我が家を離れ避難しているそうだ。テレビは街に流れる茶色く濁った水が車や家を飲み込んでしまっている様子を映していた。私には何もできないが、なるべく早く元に戻ることを願う。その時一緒にニュースを見ていた息子が言った。 「神さまはひどいなぁ、こんなときに何もしないなんて。僕だったらこの水を理科で使うスポイトで吸い取っちゃうのに。それでその水を、遠くの水がないところに落とすんだ」  息子はそう言って私の方を見て歯を見せて笑った。自分の息子ながら、なんて良い子に育ったんだと思った。 「そうだな、そうしたらみんなが幸せになれるな。みんなのことを考えられるなんて、おまえは神様に向いてるかもしれないぞ!」  私は息子の考えたことを大いに褒めてやった。  ふと手元にある濡れた衣服たちを思いだした。外の様子を見る限り雨が上がる気配はない。仕方ないと、においは我慢して部屋に干すことにした。  結局その日は雨が上がることはなく夜になった。息子はベッドですやすやと眠っている。私も部屋に干された洗濯物がまだ湿っていることにけだるい気持ちを覚えながらながらベッドに入った。  次の朝は快晴だった。私は昨日部屋干しした洗濯物をもう一度洗い、意気揚々とベランダに干していた。  部屋の中でテレビがやけに騒がしく何かを報道している。私はテレビの画面を見て思わず洗濯物を落とした。  テレビには、九州の上空に突如現れた巨大なスポイトが映し出されていた。  神様はイタズラが好きらしい。私は今、テレビで流れるニュースを見て思った。
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