先輩、そこまでです。

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部活の休憩時間、俺と会長は人目を忍んで楽器倉庫で話し合った。 「多分、紅は君が大事なんだろうね。どっちかっていうと庇護欲ってヤツに近いのかもしれないけど」 先輩は乱雑に仕舞われた楽譜を整理する傍ら、俺の相談に応じてくれた。 「自分はタバコを吸うけど子どもには吸わせたくないみたいな感じでさ。紅は健全だった君を知ってるから、多分……BLを読むことで変わるかもしれない君を見たくないんじゃないかな」 「変わるって、そんな大袈裟な。別に俺、あれらを読んだところで何も変わりませんよ」 「そう思うけどね。腐男子を上手く隠してる人なんてごまんといるし。でも」 会長は机の上の埃を払うと、そこに腰掛けた。 「分かんないね、それだけは。変わったように見えるか、見えないか。どう感じるかは人それぞれだから」 「そ、それなら! 会長は、BLを読んで自分が変わったと思いますか?」 「思うよー。そりゃもうたくさん」 それは意外な回答だった。すごく気になって、ついつい前に踏み出してしまう。 「例えば、何が変わりました?」 「そうだね。まず毎日が楽しいのと、好きだと思えるものが増えたこと、かな」 「それは、例えば……?」 「二次元じゃ物足りなくなって、好きなゲイビのDVDを裏ルートで買いまくったね。あと年齢に抵抗がなくなってきた。小学生から初老まで、幅広い年齢層に手を出せるようになったよ。理想は高く、夢はおっきく、ってね」 両手を広げて壮大に語る会長は、俺には無いものをたくさん持っているようだった。 「君が見てる世界はまだほんの一部分に過ぎないよ。嬉しいことも辛いこともBLには全てが詰まってる。言わば全宇宙なんだよ」 壮大だ。そんなスケールのでかい話だったっけ、コレ。 ちょっと分からないけど、会長の言うことは一々心に沁みるなぁ。 そもそも俺はBL研究が何なのかも分からない。今の俺がやるべきことはできる限り多くの作品を読み、ディテールを意識し、感想文を書くことぐらいだ。 「会長! やっぱり俺、もっと色々読みたいです。紅本先輩に内緒で、18禁を読んでもいいでしょうか?」 会長は静かに、しかし力強く頷いた。 「ありがとうございます!」 深々とお辞儀をして、無事に相談は終了した。 あぁもう、紅本先輩に会うのが待ち遠しい。 大事なはずの部活練習も、彼のことを思うともどかしく思えるから大変だった。
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