先輩、そこまでです。

1/10
543人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ

先輩、そこまでです。

一昨日は頑張ったけど惨めだった。 昨日は恥ずかしかったけど、とても嬉しかった。 それは何故か? 理由はひとつ。 今日から俺と紅本先輩は恋人同士! 色々と展開早すぎて自分でもビックリしてる。でも無事に受け入れてもらえたから結果オーライだ。夢にも思わなかった夢(?)、言うなれば望外の喜び。めちゃくちゃ嬉しい。どこか高い所に登って心の底から叫びたいけど、それはさすがにやめとこう。 「未早、何か良いことあった? 嬉しそうじゃん」 朝、教室に行くと前の席のリョウが話し掛けてきた。いやしかし、俺の心を読んだかのような発言だ。思わず身構える。 「何で分かんだよ。エスパー? それともマイクロチップ埋め込まれてんのか」 「マイクロ……? いや、普通にわかるよ。ずっと笑ってるもん」 「ずっと笑ってた!? 変人じゃん!」 「変人だろ」 「うわぁ、恥ずかし……なら教えてくれよ」 コントみたいな掛け合いをして、机に顔を伏せる。 「いいじゃん、お前は笑ってる方が良いよ。で、何が嬉しかったの。サイフでも拾った?」 「違うよ。詳しくは言えないんだけど、長年の夢が叶ったんだ。それがすごく嬉しくてさ。今なら俺、マジで何でもできるよ」 「へぇー。じゃあちょっと、ここでバク転してよ」 「ごめん嘘ついた」 でも、本当に幸せだ。こんなに幸せで良いんだろうか。 いざ夢が叶うと幸せ過ぎて不安になってくるから、人って不思議だ。 昼休み、売店に行くと後ろから背中を軽く叩かれた。 「よっ。今から昼飯?」 「紅本先輩!」 振り返ると先輩がパンとペットボトルを持って立っていた。店の中は人で溢れかえっていたけど、先輩は背が高いから見失うことはなさそうだ。 「はい、今から買うところで」 「そっか。良かったら一緒に食う?」 一緒に……! すぐに頷くと、先輩は「オッケー」と笑った。 先輩と昼飯……。 中学以来。しかも、付き合ってから初めての。何かもう、ドキドキしていた。 賑やかな売店を出て、先輩がオススメと言う中庭へ向かう。ひなたに位置するベンチに腰掛け、互いに買ったものを並べる。俺はおにぎりで先輩はサンドイッチだった。 「いいだろ、ここ。意外と人来ないんだよ」 「良いですね。俺教室以外で食べるの初めてです」 木々に囲まれた景色とか、丁寧に手入れされた花壇とか、落ち着いていて好きな空間だ。先輩といるから、なおさら。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!