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「……ごめん俺…気を付けてたんだけど…甘かった。」
辛そうに謝る純平に、私まで苦しくなってきた。
純平は私には言わないけれど子供好きだ。
本当はすぐにでも自分の子供が欲しいんだと思う……
でも私が子供が苦手なのを知っているし、今は仕事を優先したいという私の気持ちを尊重してくれていて、あえてそんなことは一切言わないようにしてくれていた。
わかってる。
わかってるのに……
「……純平……」
私は今からそんな優しい純平にサイテイなことを言う。
「今回は諦めて欲しい。」
純平の顔が見れない。
店内は静まり返っていて、私達の話の行方に聞き耳を立てているのがわかった。
「サイテイな女だって軽蔑してもらっていい。でも無理なの。仕事だって忙しいし…今、子供を産む自信なんて私には全然ないから。」
じゃあいつならいいのか……
仕事が落ち着いたら?子供を産む自信が付いたら?
そんなの…一生こないかもしれないのに。
「自分がサイテイなことを言ってるのはわかってんだ?じゃあ俺も今からサイテイなこと言ってもいい?」
私への罵倒ならいくらでも聞く。
でもこれは……
まさか………別れ話?
私は子供を産むという現実から逃げたかった。
こんな女、振られても仕方がない。
でも…だからって純平と別れるなんて……
「……麻里……」
──────やだ……聞きたくないっ!!
「産んでくれ。」
えっ……
「麻里が子供が苦手なのも仕事が大事なのもわかってる。でも、産んでくれ。」
─────純平……
「俺の知ってる麻里は何事にも真剣に取り組む真面目な女だ。でも、一つのことしか考えられない不器用な女でもある。」
純平は私のことを困ったような顔で見つめながら言った。
「本当は迷ってんだろ?」
私だって純平との子供が欲しくないわけじゃない。
本当はどうしたいかだなんて自分でもわからなかった。
今お腹の中にいる自分の子供が可愛くないわけでもない。
むしろ、元気に産んであげたいって思ったから、禁酒しなきゃって…そう、思ったんだ……
「最初っから自信満々で産むやつなんかいると思うか?」
「それは……」
確かに、そうかもしれないけれど……
「麻里は今まで通り仕事を続けたらいい。全部俺がするから。」
「なに言ってんの?産むのは私なんだよ?」
紫のラインをトイレで一人で見た時…その、とてつもない重さに心が押しつぶされてしまった。
大変そうだなあと他人事のように見ていたことが、いきなり自分にも降りかかってきたのだ。
「産むことは代わってあげれない。でもそれ以外は全部俺がする。」
その責任感から逃げたくてサイテイなことを言ってしまった。
でも、そんな私に純平はなんの迷いもなく、産んでくれと言ってくれた。
私は一人じゃない。目の前に、共に歩んでくれる人がいる……
「お乳あげんのも、オムツ変えるのも、風呂に入れんのも寝かし付けんのも全部俺がする。」
大きな体の純平が小さな赤ん坊の世話をしている姿は、微笑ましさを通り越して笑ってしまう。
ホントに…頼もしすぎる……
「保育所の送り迎えだって離乳食だって、なんなら家事だって全部俺がする。」
ううん?全部って…どこまで全部?
「本気で言ってる?本気で全部出来ると思ってる?」
「楽勝だろ。」
楽勝って……あまりの大口ぶりに逆に信用出来なくなってきた。
不安がる私のお腹を、純平は愛おしそうにそっと撫でた。
「赤ちゃんを産む大仕事に比べりゃ、これぐらい屁でもねえだろ?」
純平は私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
あたたかくって大きくって、とても頼りになる純平の手……
「麻里のことも、これから産まれてくる子も俺は全力で守る。だから安心しろ…わかった?」
ああ、私は……
ちゃんと
サイコウの人を選んでたんだ。
「うんわかった……私、頑張って産む。」
店内から雄叫びのような歓声が上がった。
シャンペンシャワーならぬビールシャワーが、そこら中で噴水のように降り注いだ。
そういやこいつら聞いてたんだ……
「兄ちゃん良かったなぁ。まあ飲めや!」
「俺のも飲め〜っ遠慮すんなーっ!」
酔っ払った汚い親父達が、次から次へと純平のグラスにビールを注いだ。
それを純平はありがとーっ!と言いながら片っ端から飲んでいた。
私の皿には大量のアテが置かれた…とてもじゃないけど食べ切れない。
底なしの純平だがさすがに酔っ払ったようだ。
店の中だというのに鞄から例のアレを、ドラえもんのごとく高々と取り出した。
「じゃじゃ〜ん。スパイラルとつぶつぶ〜っ!麻里はどっちがいい?」
またその話かよ…純平の頭ん中ソレばっかだな。
「これは男側というより女側への機能だし〜麻里はどっちの方が気持ち良さそうだなって思……」
純平の顔面に拳をめり込ませた。
「だいたいしばらくはH出来ないからね?」
「はぃい〜?ダメなのっ?安定期入ったらソフトのなら大丈夫じゃねえの?お父さんだよって挨拶がてら良くない?」
ナニで挨拶する気なんだよ……
お腹の子がビックリするだろ。
「まさか妊娠中なら生で中出し出来るとか考えてないよね?」
「自分の子に顔射するほど腐ってねえわ!」
サイテイだなこいつ……
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