序章

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侍従は恐る恐る、といった具合でアルケットにもう一通の封書を差し出す。 アルケットが当然のように侍従から封書を受け取り、裏を見る。 真っ白な封筒には、差出人の名もなければ、封書だというのに封すらされていない。 アルケットが何も言わず、中の手紙を取り出し開く中、侍従はいう。 「アスタル姫からでございます。 王子がお送りになられた、その……ラブレターと共に、送られてきたものでございまして……」 なにかに言い訳でもするように侍従がいう中、アルケットは真顔で手紙を見る。 ──そうして。 「はははっ」 愉快というにはあまりにも冷たい空気を乗せた声で、アルケットは笑う。 侍従がびくりと肩をすくませるのに構わず、アルケットはアスタル姫からの手紙を畳み、真っ白な封筒と共に机の上に置く。 「とんだ人だな、アスタル姫というのは。 せっかくこちらが穏便に事を済ませてやろうというのに」 一人言の様に言って、アルケットは再び窓の外を見やる。 どこまでも広がる暗雲は、これからの行く先を暗示しているようで──アルケットは知らず、冷たく柔和な笑みを浮かべたのだった。
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