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梛君との再会から三年の時が経った。日常に戻った私は、すっかり梛君のことを心の奥底にしまい、忘れていたと言ってもいい。
相変わらず部署の主任という私は、部長から振られる仕事と、部下の管理に奔走していた。
春は人事異動の季節。新人が大量に投入され、慣れた頃の若手も入れ替わり、勝手のわからない職員が増えるので忙しい時期に他ならない。その怒涛の四月を乗り越えた五月の半ば、イレギュラーな異動があった。
「夏本主任、新しい部長が来るって本当ですかぁ?」
若い社員はその噂でもちきりである。いつもは話しかけることはおろか、挨拶すら満足にしない私にわざわざ聞いてくるくらいだ。
「本社から新しい部長が来るそうよ」
私が知っている情報はそのくらいなものだ。どうやらうちの広報部の仕事ぶりにメスを入れに来るらしい――という情報は伏せておく。
新入社員が二年目になると、化粧室や喫煙室に入り浸るようなうちの課が、褒められるような成績を残せるはずがない。現部長は上に媚を売ることばかりに必死で、下まで手が回らないようだ。そこで下の管理をするのが私の役割なわけだが――多勢に無勢と言うべきなのか、私の力不足と言うべきなのか。何の権限もない私が叱りつけたところで、改善されるのはその場だけ。影では局としていい酒の肴にされているのだろう。
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