874人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
「あの、聞きたいことがあるのですが……」
「敬語やめろよ、友達だろ」
「上司ですから」
「面倒臭せぇな。上司命令だ、職場外では敬語をやめろ」
「職権乱用」
「あはは、上司って便利だなぁ」
楽しそうに目を細めて笑う梛君に、私はため息を吐いた。
「まぁいいわ、ねぇ、どういうことよ? あなたニューヨークの会社に勤務してるんでしょう? IT関係の」
「去年夏本の会社にヘドハンされたんだよ」
「マジ! 知らなかった……」
「そ、でも俺、正式な社員じゃないんだ、いわゆる……なんだ? 派遣?」
「ハケン?」
「そ、籍はアメリカの会社にあって、おまえの会社が立ち直るまでの契約でこっちに出稼ぎに来てる」
「そんなんアリなの?」
「アリらしい。まぁ、任せろ、じゃんじゃんメス入れてやるから。おまえもわかってると思うけど、職員半分に減らしてもいいくらいの仕事量しかこなせてないぞ」
「返す言葉が無い……」
「おまえ、自分に仕事振りすぎ」
「人に振るくらいなら自分でやった方が楽で……」
「はぁ無能かよー」
「知ってるよ」
「違う違う、今のおまえに言ったんじゃない。前の部長に対して言った。うちの課の主任なんて全く権限のないいわば平と一緒だもんなぁ、おまえが一人でわめいたところで変えられないだろ」
「いや、本当に面目ない……」
「そうそう、一人仕事量が半分以下のやつがいたけど、あれなんでだ?」
問われて私は一人の女性社員を思い浮かべて、思わず苦笑いになる。
「あぁ、小嶋さんかな? 彼女は小さい子がいるし、妊婦だから急に休むことも多くて、誰かがフォローに入ってもこなせる量しか振ってないの」
「時短取らせないのか?」
「育休復帰の時に取ったらいいんじゃないかって提案したんだけど、フルで働きますって言うから……それ以上強く言えなくて」
「なるほどなぁ、了解」
ビールを飲みながら、梛君は真面目に私の話を聞いてくれた。仕事のことを、こんなにも誰かに相談したのは初めてかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!