実葛~望まぬ再会~

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「あの、聞きたいことがあるのですが……」 「敬語やめろよ、友達(・・)だろ」 「上司ですから」 「面倒臭せぇな。上司命令だ、職場外では敬語をやめろ」 「職権乱用」 「あはは、上司って便利だなぁ」  楽しそうに目を細めて笑う梛君に、私はため息を吐いた。 「まぁいいわ、ねぇ、どういうことよ? あなたニューヨークの会社に勤務してるんでしょう? IT関係の」 「去年夏本の会社にヘドハンされたんだよ」 「マジ! 知らなかった……」 「そ、でも俺、正式な社員じゃないんだ、いわゆる……なんだ? 派遣?」 「ハケン?」 「そ、籍はアメリカの会社にあって、おまえの会社が立ち直るまでの契約でこっちに出稼ぎに来てる」 「そんなんアリなの?」 「アリらしい。まぁ、任せろ、じゃんじゃんメス入れてやるから。おまえもわかってると思うけど、職員半分に減らしてもいいくらいの仕事量しかこなせてないぞ」 「返す言葉が無い……」 「おまえ、自分に仕事振りすぎ」 「人に振るくらいなら自分でやった方が楽で……」 「はぁ無能かよー」 「知ってるよ」 「違う違う、今のおまえに言ったんじゃない。前の部長に対して言った。うちの課の主任なんて全く権限のないいわば平と一緒だもんなぁ、おまえが一人でわめいたところで変えられないだろ」 「いや、本当に面目ない……」 「そうそう、一人仕事量が半分以下のやつがいたけど、あれなんでだ?」  問われて私は一人の女性社員を思い浮かべて、思わず苦笑いになる。 「あぁ、小嶋(こじま)さんかな? 彼女は小さい子がいるし、妊婦だから急に休むことも多くて、誰かがフォローに入ってもこなせる量しか振ってないの」 「時短取らせないのか?」 「育休復帰の時に取ったらいいんじゃないかって提案したんだけど、フルで働きますって言うから……それ以上強く言えなくて」 「なるほどなぁ、了解」  ビールを飲みながら、梛君は真面目に私の話を聞いてくれた。仕事のことを、こんなにも誰かに相談したのは初めてかもしれない。
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