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紫陽花が雨に打たれていた。
六月の雨はやむことを知らない。ぐずついた空は、泣き止んだかと思えばまたすぐに涙をこぼす。
私は傘をしっかりと持って足早に自宅を目指していた。金曜日の夜、行き交う楽しそうな声にため息をついて、私は玄関の扉を開ける。
がらんとした部屋の中が外の明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がる。パチッと、明かりをつけた。
ブブッ
ショルダーバッグの中のスマホが鳴る。開けば懐かしい文字が並んでいた。
赤城先生退職記念パーティー兼──高校92回生同窓会のお知らせ。
「先生退職かぁ……」
高校時代の担任の顔を思い浮かべる。若々しいとな思っていた四十半ばの数学教師は、もう還暦を迎えるらしい。
その分、私にも同じ時が降りかかっている。
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