実葛~望まぬ再会~

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【梛君がうちの社に来たって?】  思わず車両の中でメッセージを送った相手は、営業課に勤務している西藤(さいとう)みなみだ。高校の同級生であり、会社の先輩にあたる。大卒で入社した私に対して、みなみは院卒での就職だった。同期入社の開発部の山南(さんなん)海都(かいと)という男と結婚を約束していたみなみは、昨年その山南さんを肺癌で失った。その悲しみを乗り越えて、みなみは今も強く在ろうとしている。尊敬する女性の一人だ。それに比べて私ときたら―― 【うちの課が問題を抱えてたのは知ってるでしょう? 部署の立て直しのためにわざわざ他の会社から一年間も来るなんて異常じゃない?】 【それだけ朝海に未練があったんじゃない? 高校時代のあなたたちはじれったいったらなかったわ】 【違う違う、梛君妻子持ちだから】 【うっわぁ……。朝海、間違える前に連絡ちょうだいよ】  鋭いみなみのメッセージに、私の心臓はどきりと跳ねる。みなみは自分のことには疎いくせに、人のことには聡すぎる。 【何をどう間違えるのよ】 【朝海は真面目だから一線を越える時が怖いの、覚悟まで決めちゃいそう】  いったい、何の覚悟を決めるというのか――私は察しの良い旧友の言葉にため息を吐く。  もう、三年前のようなことは起きない――。起きるはずはない。梛君の家庭は順調だ、もうすぐ二人目も生まれる。  私と梛君が歩む道は、三年前に一度謝って交わった後はもう、二度と交わることはない。
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