実葛~望まぬ再会~

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「用件は?」 「なぁ、おまえが亜美を逆恨みする気持ちはわかるけどな――」  太亮はそう、切り出した。私はわけがわからないまま、彼の言い分を聞く 「おまえが恨むのは俺だろう? 亜美にやつあたりはやめてくれ、知ってると思うが彼女は妊婦なんだ」 「知っているわ。あなたがなにを言っているのか、まったくわからないわよ、要点をはっきりとさせて」  私がそう言うと、太亮は少し苛立ったような声で話し始めた。大きな声を出し始めるので、外に声が漏れていないか心配になる。 「亜美に仕事を押し付けすぎだって言ってんだ。調子を崩して再々休んでんのはおまえが辛く当たるからだって泣いてるんだよ、休むから仕事も多めに振り分けられてるって。もう仕事を辞めたいって……時短も取らせずに無理にフルタイムで働かせて、何考えてんだよ、おまえ」  開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだろうか。私は太亮が言っていることを理解するのに、かなりの時間を要した。  つまり、こういうことだろう。私が小嶋さんに過剰な仕事を振り分け、彼女は疲弊して仕事を辞めたがっている――  もう、どうぞ辞めてくださいと言えたら、どんなに楽だろうか…… 「私は――」 「おまえはそんなんだからダメなんだよ、いつも自分が正しいって思ってるだろう? 世の中はおまえにみたいになんでもできるやつばっかりじゃない。できないやつのことも考えろ、お願いだから、亜美に当たるのはやめてくれよ、俺と別れた時はそんなに恨んでる素振り見せなかっただろう? それを今更――」  あまりに見当違いな言葉に、もはやなんと反論して良いのかわからなかった。 「なんとか言えよ」  私が何も言えずに黙っていると、太亮が私の肩を掴んでくる。そこで、がちゃりと第三会議室の扉が開いたので、太亮は反射的に私の肩を離した。  掴まれた肩が僅かに痛みを感じる。 「夏本はここか?」
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