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お風呂でぐったりと力を失った私を、梛君は抱き上げて上がってくれた。重たい体を、ひょいと持ち上げる腕の力強さに驚く。
「髪、乾かしてやる」
「子供じゃないんだから、自分でできるわ」
「乾かしたいんだよ、甘やかさせてくれ。おまえの髪に触りたい」
「甘やかすの意味がおかしいんじゃないの?」
梛君は私の小言に笑ってから、すとんと鏡の前に座らせると、ドライヤーを当て始める。鏡に映る自分の胸元に、赤い痕がいくつも散っていた。
「ちょっと、残さないでって言ったじゃない」
「見えないところだろうが、そんなに胸の開いた服でも着るのかよ」
「着ませんけど」
「他の男の前で服脱ぐなよ」
「余計なお世話、梛君に言われる筋合いないでしょう?」
結婚してるくせに、子供がいるくせに――この男は、何を言っているのだろうか――
それ以上に、こんなどうしようもない男にどうしようもなく惹かれる自分が、情けない。
グラスにワインを注いで、ウッドデッキに出た。空には無数の星が広がっている。
「晴れてるなぁ」
「こんなに綺麗な空、初めて見るかも」
「俺と一緒に見てるからだな」
「よく言う」
梛君はグラスをカンッと軽くぶつけてから、ワインを口に運ぶ。見上げた空は、泣き出してしまいそうになるくらい、美しかった。
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