紫露草~これは、恋ではない~

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「綺麗だな」 「本当、星が降ってきそう」 「へぇ、意外とロマンチストなのな。俺が言うのはさ、おまえのことなんだけどさ」 「はいはい」  ドキドキとうるさい心臓を、私は必死に止める。もう、このまま止まってしまえばいいかもしれない、そうなれば、私は永遠に梛君と一緒に居られる気がする。梛君の記憶に、一生残ることができるかもしれない。 「なんてね」 「なんだよ」 「馬鹿馬鹿しい妄想」  梛君は首筋に唇を這わせてくる。私の体温が上がっているせいか、梛君の唇はひやりと冷たかった。  おもむろに服に手をかけてくる。 「ここはダメ」 「誰か見てるかもって? 確かに、何をやってるのかを見られてもいいが、おまえの体は見せたいもんじゃないな」 「馬鹿なことばっかり」 「男のはみんな馬鹿なもんだ」  女も、いいえ、私もそう。  梛君は私の肩を抱いて部屋の中に帰る。ベッドサイドにワイングラスを置くと、梛君は私が身に着けていた服をあっという間に剥がしてしまう。月明かりに、梛君の顔が浮かんだ。あまりに綺麗なその顔に、涙がにじむ。 「なんで泣く?」 「虚しくて」 「虚しくなんてない」 「私には、何も残らない」  そう言い捨ててしまうと、梛君はひどく悲しそうな顔になった。そして、私の体の上に、舌を這わせる。私は、甘いため息を吐いた。
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