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「おまえに、消えない痕を残せたらいいのに」
梛君は私の体に口づけながら、苦しそうにそう吐き出した。赤い独占欲の証は、幾つ付けたところでいずれ消えてしまう。
「そんなもの、あるわけないじゃない。そもそも、私と梛君は明後日になったら無関係の人間なの」
そう、現実を吐いてしまえば梛君は激しく私を突き上げる。
「そういう話はやめろ」
「言い……始め……たのは……梛……君でしょう?」
「俺は……」
梛君はそのまま律動を早め、果ててしまったのだと思う。そして、もう一度、間をおかずに私の中に入り込んでくる。
「なぁ、もしも」
「もしもなんて、聞きたくない」
「……そうだな。もしも、なんて不確かな言葉は俺も好きじゃない」
「今だけは確かな関係でいたいの。だから明日まで──」
「おまえは、俺のもの。俺も、おまえだけのもの」
「うん……」
耳ともでささやかれる言葉を、私は涙と共に呑みこむ。この三日間のできごとを抱いて、私はこれからの人生を一人で生きていく。きっと、梛君以上に惹かれる相手には出会えない。
「なぁ、朝海」
「な……に……」
「おまえにさ、ちゃんと連絡先を残して行くから。何かあったら連絡しろ、必ず」
「何よ急に、そんな簡単にできるわけないわ。私は不倫相手、もしも奥さんに気付かれでもしたら……」
「そんなこと、気にするな」
「無茶言わないでちょうだい」
「とにかく、連絡してこいよ、東京にいても、ニューヨークにいても、どこにいてもさ、俺は駆けつけるから」
そんな真実味の薄い言葉を、どんな気持ちで吐いているというのだろうか。でも、少しでも鵜呑みにして、嬉しいと思ってしまう私は、やはり愚かだ。
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