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マンションの自室に駆け込んで五分後、チャイムが鳴った。エントランスだ。モニターには梛君の姿が映っている。私は鍵を解除した。
ほどなくして部屋の中に梛君が入ってきて、後ろ手に鍵をかける。もう、二度とない――そう心と体に刻んだ熱が、もう一度伝わってきた。
「明日はここから出る」
「泊っていくってこと?」
「そのつもりだ、ダメなのか?」
ダメだと、言えるわけがない。私は首を横に振った。
「ダメじゃない、時間ずらして家出ることにするから」
「俺が先に出る」
梛君は玄関で私を抱きかかえると、そのままリビングの手前にある部屋に入ろうとする。
「寝室はここか?」
「お風呂は?」
「朝風呂にする、今は、時間が惜しいんだよ」
扉を開けると、暗い部屋にあるベッドの上にゆっくりと降ろされた。すぐに梛君が覆いかぶさってくる。
「梛君……」
「違う」
「瑛佑」
「朝海、おまえに消えない痕を残してやりたい」
「そんなもの――」
あるわけないじゃない。馬鹿な男──
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