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総務課を出て、広報部戻ろうとすると、後ろから太亮が追いかけてきた。
「朝海、辞めるのか?」
「夏本です」
「俺のせいか?」
「そんなわけないでしょう? それなら三年前にとっくに辞めてるわ」
「じゃあ、梛部長のせいか?」
ドキリと心臓が跳ねる。なかなか鋭いところをついてくるではないか。
「関係あるわけないでしょう」
「おまえ、総務でも噂になってたぞ。梛部長と出来てるんじゃないかって、わかってるのか、既婚者だぞ、遊ばれてるだけだ」
「関係ないって言ってるじゃない。噂で深読みするのは止めて。梛君に謝ってちょうだい」
「どこで働くつもりだ?」
「あなたには関係ない」
「朝海」
「夏本です。奥さんが心配するでしょう? 大事な時期なんだから私に構ってる場合じゃないわ」
私は太亮を振り払って課に戻る。梛君の仕事は全て頭に入っている。恐らく、自分がいつ抜けても困らないよう私と情報を共有してくれていたのだ。
食欲が湧かない。胃がムカムカする……。ゼリー状の食べ物で気を紛らわしながら仕事を終えた。悪阻というものが、出始めているのだろうか……この症状は、酷くなるのか、軽くなるのか……何もわからない。
不安だけが、どんどん大きくなっていく。
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