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「同年代女性向けのコラム的なものを書いて欲しいわけよ」
明里から振られた仕事はそんな大雑把なものだった。
「ほら、話題のコスメを買って使用感を書いてみたりさ」
「なるほどねぇ、なんか題材とか絞ってる?」
「最近人気の傾向とか、うち独自に調べてるから、それをもとに記事書いてくれる? 外回りはあんまりないように購入品とかはこっちで揃えたげるからさ」
「わかった」
自分用のデスクとパソコン一つがすでに用意されている。オフィスは広くはないけれど、スタッフの人数も少ないので狭くは感じない。無駄なものがなくて、洗練されたオフィスだと思った。
「社長、石原さん来ましたよ」
若い女の子が明里を呼んだ。どうやら取引先と打ち合わせをするらしい。
「そうだそうだ、今日はうちの会社の名刺を新しくしようと思ってデザイナー呼んでたんだよねぇ。あんた今日はまだやることないし、ちょっと打ち合わせに参加しなさいよ」
「名刺のデザイン?」
「そそ、あんたのも作んなきゃいけないし。ノルディックインテリアデザイナーズのデザイナー呼んでるから」
「聞いたことあるかもその会社」
応接用のテーブルにはベージュのスーツを着た若い女性が腰かけていた。明里が姿を現すと、彼女はぱっと立ち上がって頭を下げる。
「ノルディックインテリアデザイナーズのデザイナーをしています、石原恵と申します」
はきはきとした話し方が印象的な明るい女の子だと思った。私よりも五歳以上は若そう。
「よろしく~、前ロゴをお願いしたときは佐藤さんって人だったけど、今回は違うんだね」
「はい、佐藤は今産休に入っておりまして、私が代わりを務めることになりました。精一杯ご希望に応えていこうと思いますので、よろしくお願いいたします」
「いいねいいね、佐藤さんのデザインもかなりお気に入りだけど、若い人のほうが尚いいわ」
明里は楽しそうにけらけら笑いながら、石原さんと話し合いを始めた。明里の要求に必死に答えながらも、無理なことは無理とはっきりと答え、できることは一歩踏み出して精一杯やろうとする――石原さんの仕事ぶりはそんな感じだった。すごく好印象。
世の中には、頑張っている人たちがたくさんいるのだと再認識した。私も、できることの一歩先を目指して頑張っていこう。
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