撫子~純粋な愛をあなたに~

8/22
前へ
/94ページ
次へ
 明里の会社で働き始めてあっという間に三か月が過ぎた。その間に、私のお腹は見違えるほど大きく膨らみ、体形が大きく変化した。  明里の計らいで休みやすい体制にしてもらっていたが、幸い体調は落ち着いていて、仕事に支障はなかったと思う。記事を書くという初めての仕事もかなり楽しいと感じた。 「もう産休かぁ、石原さんも頑張ってくださいって言ってたよ~あんたの名刺できたけどいる?」 「いや、いいや、戻ってきたときにちょうだい。失くしたらいけないし」 「あんまり無理しなさんなよ、みなみは忙しいだろうけど、私のことは呼びなよ」 「誰か他の人寄越すけどって言うんでしょ?」 「あはは、そうそう。私が行っても役に立たないだろうし、日野っち送り付けるから」 「日野さんいいねぇ、癒し系嬉しい~」  明里はそう言って、若い社員の名前を挙げた。 「私も喜んで伺います~食べたいものがあったら言ってくださいね~」  日野さんは人好きのする柔らかい笑顔を向けてくれる。 「体に気を付けなさいよ」 「明里、何から何まで本当にありがとう」 「感謝しなさい!」  そう、にぃっと笑顔を見せる明里や同僚にに送り出されて、私は産休に入った。  こんなに穏やかな気持ちで休みに入ることができたことに、感謝の気持ちでいっぱいだった。  世の中はきっと、捨てる神ばかりではない。  そう、思っていたというのに──
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

881人が本棚に入れています
本棚に追加