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扉を開けた先には、背の高い綺麗な女性が立っていた。その佇まいはテレビドラマに出てくるヒロインの女優のように凛としている。
彼女は私の姿を見て、大きく目を見開いた。
「失礼ですが、お子さんと夫に関係は?」
「――ありません」
「わかりました、その言葉を信じましょう。あなたに夫を奪う気がないことが分かれば十分です。お体、しんどいでしょう? お大事になさってください」
すみませんでした――そう、謝るべきなのだろう。それなのに、言葉が出てこない。謝ってしまうことで、私と梛君の間にあった思いが、間違っていたのだと、認めてしまうのが嫌だった。
私と梛君は間違いを犯した、でも――私は確かに梛君のことを愛してしまっていた。
「夫を支えてくださってありがとうございました。私にもいろいろと事情がありまして、夫は不安になっていたのだと思います。その不安な時期を乗り越えることができたのは、夏本さんがおられたからだと思います」
彼女の言葉からは、梛君との間にある確固たる絆が感じられた。やはり、梛君が選ぶのは彼女なのだ。そう、それが正しいこと、私が選ばれるはず、ないではないか。そんなことは、初めからわかっていたというのに……
「それでは、失礼します」
優雅に頭を下げて奥さんが帰っていくと、私は玄関先に座り込んでしまった。次の瞬間、急に多いな痛みが襲ってくる。お腹が、つぶされるような痛み――少し間をおくと、痛みは引き、また少し立つと立っていられないほどの痛みが襲ってくる。
病院に、行かなくては――! 私はあらかじめ用意してあった大きなカバンをひっぱりだすと、病院に電話を入れた。
【痛みの感覚はどの程度ですか?】
「十分……くらいだと、思います」
【わかりました、こちらにいらしてください】
わかりました――そう答える間もなく痛みが襲ってくる。私は這うように家から出た。この子だけは、無事に生み落としたい――その一心で歩みを進めた。
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