撫子~純粋な愛をあなたに~

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「どうして……」 「待たせて、悪かった」  ぎゅっと、大きな胸に包み込まれる。このぬくもりを思い出すのに、時間など必要ない。 「帰って……こんなとこ、来ちゃだめだよ、梛君……」  ぐっと、私と撫子を抱きしめる腕に力がこもる。半開きになった扉を閉めてから、梛君はようやく私たちの体を離した。 「嫌だ」 「帰ってちょうだい」 「今日は会いに来たんじゃない、迎えにきた」 「適当なこと言わないでちょうだい。奥さんはどうしたの? どういうことか説明してもらわないと、何が何だか……」 「嫁さんと離婚してきたんだ。向こうの家と散々話し合いをして、やっと……」 「離婚……してきた……?」  陣痛が起こり始めた日のことが鮮明によみがえってくる。あの日、梛君の奥さんが私を訪ねてきた。梛君と、私の関係を、完全に終わらせるために……。 「嘘、奥さんは、離婚なんてしない口ぶりだったわ」 「ここに来たのか?」 「うん」 「いつ?」 「……撫子を産むために入院した日」  そうか……と小さくつぶやいた梛君は、大きく息を吐きだした。 「辛いときに一緒にいてやれなくて悪かった」 「大丈夫、一人で産むって決めていたの」 「俺の子なのに?」 「あなたの子だから」  撫子に視線を落とすと、きょとんとした表情で梛君を見つめている。 「なぁ、抱かせてくれないか?」 「怖がらないかな」  梛君に撫子を渡す。私の不安をよそに、撫子は大人しく梛君の腕に抱かれた。 「俺、自分の子供を抱っこするの、初めてだわ」 「三人もいるくせに」 「父親俺じゃねぇし」  自虐的なその言葉の中に、悲しみの色はない。もう、完全に片をつけてきてくれたのだ――奥さんのとの結婚生活に……。 「梛 撫子かぁ。いい名前だけどどゴロが悪いな」 「夏本 撫子ですから」 「なぁ朝海」  梛君は撫子を大事そうに抱きかかえながら私を見つめてきた。その瞳には、かつて互いを求め合ったころと同じ光が宿っている。 「朝海、俺と結婚してくれ」
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