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蓮野さんが家を訪れてからひと月ほどたったころだろうか、撫子を寝かしつけていると突然家の扉が開いた。この家の鍵を持っている人なんて一人しかいない。私は反射的に顔を上げる。
「梛君……」
「おいおい、いい加減名前で呼んでくれよ。おまえも梛のくせに」
「仕事は?」
「日本に進出することが決まったから一足先に帰ってきた。俺が日本支社の社長ってとこだな」
「じゃあずっと日本?」
「ひとまずはそうなるな、軌道に乗ったら今度はアジア進出もいいな。悪いなぁせっかくのアメリカ暮らし。まぁ、旅行でよかったらいくらでも連れて行ってやるから」
私は梛君の腕の中にすっぽりと納まる。この腕の中に、あの美人の蓮野さんも納まっていたかと思ったら少し複雑だ。
「おいおい、俺が帰ってきたのに嬉しくないのかよ。なんでそんな不服そうな顔してんだ」
「私、心が狭いのかも」
「は?」
「梛君の過去に嫉妬する」
梛君がおかしそうに笑う声が耳をなでる。ゆっくりと降りてくる唇が私の肩に触れる、大きな右手が服の中に入り込んできた。手の冷たさに、少しだけびくりと体が震える。
「そんな余計な事考えられないようにしてやるから」
「梛君はずるい。いつもいつも私が翻弄される」
「そんなことないだろ、おまえのせいで俺は人生遠回りだ。おまえと結婚できるまですげぇ遠かった」
「ごめん」
「翻弄されてるのは俺の方だ、こんなことなら高校の時に無理やり俺のものにしとくんだった」
梛君の手が、ゆっくりと服を脱がせていく。露わになった肌に、舌が這う。
「もう、離してやんねぇから」
「梛君……」
「瑛佑だって」
「えい……すけ」
かすれた声とともに、声が漏れる。こうなってしまうと、私が梛君、いや、瑛佑に敵うはずがない。
すれ違った時間を埋めるように互いを求め合う。もう二度と、離れることはない。
「そろそろ二人目産んでもいいだろ」
「えぇ!?」
「撫子、美人だろう? 俺たちの遺伝子、相性良いみたいだし。家族は多い方が楽しいだろ?」
「ちょっと……」
瑛佑は私の体を責めあげる。快楽で頭がくらくらとして、もう何も考えることができない。
「愛してるよ朝海、やっと、手に入った」
「私も……」
私たちはすれ違っていた時間を埋めるように互いを求め合った。
もう大丈夫だと確信が持てる。私たちは、やっと夫婦になれた。
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