睡蓮の恋・2

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 私なんかとは世界の違うきらきらしいお二人を前に、このふわふわと風になびくスカートが大変いたたまれない。  ああ、二人並ぶと眼福ですね、今日は新人連れて得意先まわりでしたか、お疲れさまです会社そこです戻っていいですよっていうかお姉ちゃん早く来い! 「三枝先輩、珍しいですねそういう恰好。似合いますよ」 「あ、それは、どうも……」  ええい、佐々木め、笑顔でさらっとそういうことを言うんじゃないわっ、こちとらお世辞だって言われ慣れていないんだから。  もう、風に揺れる髪を押さえながら片手で顔を隠すのも限界。その時、一台の車が滑るように目の前の歩道に横付けになる。  シルバーのメルセデスの窓が下がり、声をかけてきたのは義兄だった。 「お待たせ、葉ちゃん」 「純也(じゅんや)さんっ、やっと来た……あ、課長、佐々木くん、それではお先に失礼します」 「あ、ああ。お疲れさま」  顔も見ず挨拶もそこそこに逃げるように助手席に滑り込む。2ドアの車の後部座席にはジュニアシートに座った牡丹と姉がいた。 「お疲れー、ちょうど十五分だったでしょ」 「ようちゃん、似合うっ、スカートかわいい」 「はは、ありがとう牡丹。ああ、疲れた。お腹すいたぁ」  ようやく逃れられたことに一息ついた私は、課長と佐々木くんが走り去る車を唖然と見つめていたことに気付いていなかった。
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