睡蓮の恋・4

2/6
前へ
/54ページ
次へ
 探そうと……知ろうとすれば、いくらでも調べる手立てはあった。  けれど、一度もしなかった。名前で検索をかけることも避けていた。  それなのに、また会ってしまった。 「これもご縁なのかなあ……」 「何が?」  突然声をかけられて、鞄に葉書をしまった手が中途半端なところで止まる。  恐る恐る声の方を見上げようとすれば、その間に詰まる距離。 「か、片桐課長、びっくりしました。今日は早いお帰りなんですね」 「悪い、驚かせたか? 区切りが丁度良くてな、金曜だしたまには定時で上がろうかと」 「そうしてください。働きすぎは、体にも、帰りたい部下にもよくないですから」  それもそうだ、と笑いながら駅まで一緒に行くかとごく自然に横を歩く課長は、身長も足の長さも全然違うのに私の速度に無理なく合わせてくれている……なんだこのスマートさ。慣れてるんだなぁ。 「週末だけど三枝さんは飲みに行ったりしないの?」 「本当は約束してたんです、千香ちゃ、ええと、高遠(たかとお)さんと」 「ああ、仲よかったな」 「やんごとない諸事情により延期です。なので帰って一人酒します」 「うん? じゃあ、その辺で飲んでいくか」  え? は、何? 社外で話したのなんて、この前の一瞬を入れてもこれが二回目の他部署の部下を単独で飲みに誘うなんて。そんなにフレンドリーな人だったなんて聞いたことない。  誘っても誘っても飲み会にも来てくれないと総務の子が愚痴を言っているのは知ってるけど。あれ?
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

603人が本棚に入れています
本棚に追加