睡蓮の恋・4

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「こっちに美味い店がある。三枝さんは和食好きか?」 「はあ、大好きですけど私は家に帰、」 「戻り鰹が美味い時期だな」 「はい、行きます。どこですか、こっちですか」  盛大に笑われた。  誘っておいてそれはないと思ったけれども、私が課長の立場だったらやっぱり笑うだろうから良しとした。美味しいものは大好きだ。いざ行かん、戻り鰹。  案内されたのはちょっとだけ住宅街に足を踏み入れた場所にある、こぢんまりとした小料理屋だった。  表通りではあるのだけれど、会社から駅へ行く道からは外れている。 「こっちには来たことなかったです。いい雰囲気のお店ですね」  美人の女将さんと、私と同年代くらいの女性の二人がカウンターと奥の厨房をくるくると行き来している。母娘でやっているお店らしい。  お店の内装はお寿司屋さんみたいな感じで、席数は多くない。家庭的な雰囲気だけど一見さんお断り的な排他感はない。賑わっている店内の客層も和気あいあいとして素敵なお店だ。美味しい匂いも堪らない。 「食べられないものはあるか?」 「ないです。うーん、どれも美味しそうですね……こちらは初めてなので、注文は課長にお任せしてもいいですか?」  丁度ひとつだけ空いていた二人掛けのテーブルに座ると、まわりの席をちらりと見て言った。うん、本当に美味しそう。 「あ、あれは食べたいです。あそこの人が食べてる小鉢」 「あちらは、鶏のつくねを南瓜のきんとんで包んだお饅頭ですよ。女性に人気ですね」  片桐さんいらっしゃい、と着物姿の女将さんがおしぼりとお水を運んでくれた。にっこりと笑って丁寧に渡してくれるその所作に見惚れる。 「戻り鰹入ってる?」 「今日はいいのがありますよ。お造り? たたきは梅がおすすめね」 「あ、たたきがいいです!」  私の勢いあるオーダーに女将さんはふふ、と笑って承知しましたと伝票に書く。その他にも課長が幾つか注文を入れて、ついでに日本酒も頼んだ。
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