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通りがかりにもらって、と鞄から取り出して渡すと興味深そうに眺める。
課長が持つとただの絵葉書もなんだか様になって、ちょっとだけ悔しい気がする。何で男の人のくせに手の形が無駄に綺麗なんだ。ネイル塗っちゃうぞ。
「絵が好きなのか?」
「好きですけれど、それは、偶然にもその画家さんが知ってる人で。高校の同級生なんです」
「へえ、たいしたもんだな」
その称賛は、書いてある受賞歴についてか、それとも芸術という不安定な職種で生きていることに対してか。
「高校か……はは、随分前に感じるな。じゃあ、この画家とは今も連絡をとっているのか」
「あ、いいえ」
そこでやめればよかったのに、ぽろっとこぼしてしまったのは、きっと美味しかった冷酒のせいだろう。
「……付き合ってたんですけど、四年前に別れました。その後この人は本格的に海の向こうに腰を据えて。今回、凱旋帰国のようですね。まさか、こんなに近くの画廊に来るとは思いもしなかったですけど……意外ですか?」
鳩が豆鉄砲、って顔をしていた。
確かに枯れてるアラサーの私みたいなのに色恋の話をいきなり聞かされたら驚くとは思うけど。
なんだか今日は、見たことのない課長の顔ばかり。
「ああ、いや……どちらかというと、納得した」
「え」
「いや、うん。大丈夫」
なにがだ。よくわからないまま葉書は戻されて、ついでに会計まで済まされた。自分の分は払うと言ったのに許されず、じゃあ次は割り勘でとなった。
あれ、次回が確定している?……ここにはまた是非来たいから、深く考えないで頷いた。
ついでになんだかんだ言いくるめられて、携帯の番号なんかも交換した。
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