睡蓮の恋・5

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 今日は課長が車を出してくれて運転手なので一人で飲みます。目の前ですみません、ご馳走様です。 「詳しいな」 「一時、料理にハマってよく作りましたから。肉まんなんかは今でも得意ですよ。湯包、小籠包は難しくてとても無理」 「すごいな、生地から作るのか」 「むしろ他になにを作るんですか」  聞かれるままに作り方など披露したけれど、退屈する様子もなく楽しげに聞いてくれる。途中で入れる相槌が絶妙で、つい話しすぎた気もする。  ビールで軽く酔ったこともあってかなんだか楽しくなった。  ――慣れていないはずの人といて、こんなに自然に 「楽しい」と思えるのは本当に久しぶり。  もう、どうして課長と一緒にとか考えるのも面倒になって、目の前の食事に集中する。美味しいごはん、楽しい空気。小さな疑問やモヤモヤなど、勝てるわけがない。  デザートは杏仁豆腐と温かいジャスミンティー。定番コースはやっぱりこれで締めたい。 「課長、昨日のお店といい、美味しい店をご存知じなんですね」 「友人にこういうの探すの好きな奴がいてな。けっこうハズレがない」 「素敵なお友達……」  ほう、なにそれ、羨ましい。ぜひ私もお友達に。 「残念ながら、デザート系は範疇外なんだが。もう少し寒くなったら鴨南蛮の旨い店もある」 「鴨!」 「はは、楽しみにしてろ」  え、あれ、今ナチュラルに冬まで予約された? ああ、でも、鴨南蛮……。
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