睡蓮の恋・2

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 なのに、今日の終業後に待ち合わせをしている姉達は、わざわざ会社の前まで車で迎えに来てくれるという……駅前のデパートのトイレででも着替えようかと思ったのに、その道も閉ざされた。  朝の出勤時は人が多いのでいつもの格好で出社したが 、カットソーではなくブラウスを着ているという、たったそれだけで目敏い同僚からは「今日何があるの?」と興味津々に聞かれる始末。どれだけ私の服装がパターン化して浸透しているかが窺える。  聞いておくれよと顛末を話せば笑われたけど。 「葉ってば自分に構わなすぎだもの。スカート持ってきてるんでしょう、ちゃんと履いて行きなさいね」 「千香(ちか)ちゃんってば。分かってるよ、牡丹にしょんぼりされるとキツイもん」  なんだかんだ言って、姪は可愛い。赤ちゃんの時から懐いてくれているので余計に。 「髪も似合ってるし、いいじゃない。来週あたり飲みに行こうよ」 「うん、そうだね」  同僚というより友人と呼んだ方がしっくりくる同い歳の千香ちゃんは、柔らかい顔で微笑んで私の短くなった髪をふわりと撫でた。  あのスカートを買った翌日の日曜日、妙なテンションのまま美容院にも行った。長年通っていた美容院の担当さんがとうとう独立して店を出したので、ちょうど行くつもりだったし……などと言い訳を自分にして予約の電話を入れたら、ぽっかり当日に空きがあった。  運が良かったのか悪かったのか。もし一週間後だったら、きっといつも通りの髪型だったろう。
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