睡蓮の恋・2

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 誰にも会わなかったことにようやく一息ついて、気持ちのいい秋風がシフォンのスカートの裾をサラサラとなびかせるのをそのままに姉の車を待っていた。  今日はいつものフープピアスの他に、牡丹お手製のビーズのブレスレットもしている。ゴム紐に通しただけの簡単なものだけれども最近はスワロフスキーのビーズが簡単に手に入るから、小学生の手作りとは思えないなかなかの出来栄え。  私の誕生日にこれをくれた時の牡丹の顔を思い浮かべると、自然と頬が緩んだ。もうじき来るかな。 「あれ、三枝(さえぐさ)さん?」  うっひゃあ! 誰っ!?   思わず振り向けば、そこに立つのは背の高い三十代の男性と若手の営業マン。 「今上がり? お疲れさま。どうしたのそんなところで」 「か、片桐課長、それに佐々木くん、お疲れさまです。あー、あの、人を待っていまして」  嫌ーっ、めっちゃ知ってる人だった! 隣の営業一課の課長と期待の新人君だぁっ。あ、私は二課です。個人客担当課です。一課は企業など大口顧客担当です、うちの社の稼ぎ頭。  そんな一課の片桐課長は数年前に最年少で課長の職に就いた、仕事に厳しく人にも厳しい仕事の鬼。さらに容姿もなかなかにいい男。彫りの深い顔立ちと目を引く長身で、どこか外国の血が入っているという噂がまことしやかに流れている。  佐々木くんは今年の新入社員ながら仕事がよくできると評判の、え、誰の評判って内勤の女性社員の評判だけど、ちょっとかわいい系のこれまたなかなかの好青年だ。
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