睡蓮の恋・1

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睡蓮の恋・1

 秋晴れの土曜日、郊外のショッピングモール。  私はスカートとブラウスを手に、試着室の中にいた。 「(よう)ちゃん、どう?」 「ちょっと、まだ着てないからっ」  カーテンを閉めて三十秒も経っていないのに、気の早い姉だ。実際に覗きに来る様子はないことを確認して小さく息を吐き、正面の大きな鏡に目をやる。  そこに映るのは、面白みのないアラサー女。  ひょろりと薄べったい貧相な体付き、中途半端な長さの髪はどうにか纏めてバレッタでそれっぽく見せている。  何の変哲もないカットソーにジーンズ。白いバレエシューズは、歩きやすさと平均より高めの身長をこれ以上大きく見せないため。化粧っ気も薄く、アクセサリーは小さめのフープピアスのみ。  そんなつまんない女が今手にしているのは、モネの睡蓮を思わせる花柄シフォンのロングスカート……なんとういか、非常に乙女チックな一枚だ。 「うう、なんでこんなことに……」  こういうのは、小柄で可愛いタイプ――たとえば、姉のような人のための服だ。  私みたいな、ふんわりしたところがひとつもないようなのが着たらダメな気がするのに、カーテンの向こうから聞こえる姉と姪のワクワクした声は止まない。  義兄が週末出勤の休日に、この二人と食事に出かけることはよくあるが、服を買いに来たのは久し振り。  実家を出て一人暮らしをしていても、姉とこうして会う機会は多い。小さい頃はよく喧嘩もしたが、成長してからは気の合う親友のような関係だ。
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